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Melty poison@Valentine(ディスジェ)

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 ジェイドはアニスに聞き返した。確かにどの店を覗いてもチョコレート菓子は多く売っているが、何か意味があるのだろうか。
「最近はチョコを贈るのが流行ってるんですよ。お手軽だし美味しいし。大事な人には手作りのチョコのお菓子を渡したり。想いが篭ってて素敵ですよねぇ〜」
 アニスはきゃっと笑って、可愛らしく頬を両手で包んだ。
「ねぇ〜♪」
 フローリアンも真似をして頬を押さえている。若干この子の行く末が心配になる。
(手作りのチョコ菓子か……成程)
 しかしジェイドは素直に感心した。手作りの菓子ならそこに付加価値が付くし、自分で作るのだからあの人だかりの中に飛び込まなくてもいい。材料は他の食材と共にさりげなく買えばいいのだ。あの馬鹿ならば喜ぶだろうか。一度も料理など作ってやった事もないし、多分喜ぶ。恐らく喜ぶ。
「で、大佐はこれ、買わないんですか?」
 真剣に思案し出したジェイドに、アニスはおどけたように棚を指差した。
「……アニース、間違えただけだと言ったでしょう?」
 ジェイドは背後で拳を握り締めながらも、笑顔で圧力を掛ける。そんなジェイドに対し、アニスはからりと笑った。
「あ、じゃあチョコレートのお菓子、作ります? とっておきのレシピがあるんですけど〜」
 ジェイドはぎくりとした。アニスはまるで見透かしたかのような笑顔でこちらを見ている。聡いこの少女には、何か気付かれてしまったのかもしれない。
「私から手作りの菓子など貰って、喜ぶ人がいると思いますか?」
 ジェイドは薄く笑った。否定の意味を込めて言ったつもりだった。確かに妙案だとは思ったが、この少女に弱みを握られるのは避けたかった。それに、実際にいい歳をした男から手作り菓子を贈られるのはどうだろうか。いくらサフィールでも気味が悪いと思うかもしれない。
「えっ、いますよぉ! 大佐のことがだーい好きな、変な服着たあいつとか」
「…………覚えがありません」
 ジェイドは再び、その場から走って逃げたい気分になった。
「まぁあいつはともかく、友達にあげるにしろ、好きな人にあげるにしろ、要は気持ちですよぉ。大佐は料理も上手いし、プレゼントに悩むならお勧めです」
「うん、僕もアニスにチョコケーキ作って貰ったんだ。すごく美味しかったし嬉しかった! だから僕もお返しにお菓子作るんだ!」
 フローリアンはきらきらと輝く瞳でアニスを見た。買い物袋の中には、菓子の材料も入っているのか。少年少女が肩を並べて料理をする光景は、さぞ微笑ましいことだろう。
「フローリアンとは別のレシピのを作るから、これは大佐に貸してあげます! 十ページ目のチョコトリュフ、皆に好評でした。他にも色々載ってますから!」
 アニスは鞄の中から、レシピの書かれた手帳を取り出した。ぐいと胸元に差し出されて、ジェイドは自然に受け取ってしまっていた。
「……まぁ、いいでしょう。チョコレートは私も嫌いではないですから、自分で作って食べてみます」
「またまたぁ〜」
 少女はころころと鈴の転がるように笑う。彼女の声色には毒はない。先程は警戒をしたが、意外に、純粋な親切心なのかもしれない。
「あ、おまけに面白いものもありますよ。裏通りのお店でサービス、って貰ったものなんですけど……」
 アニスは思い出したように、ごそごそと鞄を探った。
「じゃーん。恋の秘薬らしいです。怪しくって私は使う気にはならないんだけど、大佐なら中身が何入ってるか解析できそうだし」
 取り出したのは、短い試験管程度の小瓶だった。ラベルにはハートのマークが描かれている。それ以外には何も書かれていない。確かに危なげだ。
「ふむ……これは胡散臭いですねぇ。非合法な成分が含まれているかもしれません。調べておきますよ」
「本当に恋に効く薬だったら教えて下さいね! 三千ガルドになりま〜す♪」
「…………」
 アニスはてへっと愛くるしい笑みを見せた。その笑顔の奥には、黒い悪魔が見え隠れしていた。
「…………アニス」
「分かってますって〜最初から最後まで、絶対内緒にしますから」
(…………)
 遠い街まで旅行に来た子供達への小遣いだ、大した額でもなし……ジェイドは自分に言い聞かせ、金を支払い薬を買った。
 慣れないことはするものじゃない、もう二度とバレンタインなどするものか、と密かに心に誓いを立てたのだった。
「アニス〜お腹空いた」
 フローリアンがアニスの服をくいと引っ張った。さっきの餡まんでは物足りなかったらしい。
「あ、お昼ご飯まだだもんね。それじゃ大佐、私達行きますね。明日遊びに行きま〜す」
「僕もチョコ作って、持っていくね!」
 彼女らは、きゃっきゃと笑い合いながら歩いていった。寒風のきつい日であったが、それをものともしていないように見える。彼女らの元には、陽光が降り注いでいるのだろう。
 ジェイドは、何だかんだで自分もいつの間にか寒さを忘れていることに気付き、そっと微笑を漏らした。

 アニスらが去った後、ジェイドはとりあえずレシピを開いてみた。
 チョコレートトリュフ。材料、生クリーム、リキュール、製菓用チョコレート、飾りにココアパウダーやナッツなど。
 これならすぐに出来そうだ。材料も少なくていいらしい。彼は早速食材屋へと向かった。
 アニスにまんまと乗せられている気がしないでもないが、形に残らないものの方が、いいかもしれない。自分達は、一応は和解したとはいえ……これからまだ、どうなるか分からないのだから。
 ジェイドは少し目を伏せた。また彼と敵対する可能性もあるし、自分の気持ちの整理も付いていない。サフィールの方も自分を慕っているとはいえ、どういう意味合いかははっきりしていなかった。口付けもされたことはないし、抱擁も大人になってからはされていないではないか。自分一人の空回りならかなり滑稽だ。
 とはいえ、このチョコレートは女性達と仕事場をサフィールの暴走から守るために必要なのである。そういう体裁だった、ならば仕方がない。嫌になったら自分で食べればいいのだから。
 ジェイドは手早く材料とチョコレート用の箱を買うと、早速家へと帰って、菓子作りを始めた。長い髪を一つに纏めてエプロンを付ける。
 サフィールだけだとばれた時に怪しまれると思ったので、複数個作ることにした。
 ピオニーの分、ガイの分、アニスの分、フローリアンの分、取りあえずそんなものでいいだろう。ピオニーやガイは不気味がるかもしれないが、カモフラージュとして使うことを許して欲しい。アニスやフローリアンと会ったので、彼らの為に作ったついでだとでも言えばいい。
 チョコレートを刻み、温めた生クリーム、リキュールと混ぜる。溶けたら冷やし固めて手で丸め、ビターチョコレートでコーティング。最後にココアパウダーや刻んだナッツなどで飾る。
 試作品一つ目を味見してみる。確かに簡単ながら、柔らかくて美味い。我ながらいい出来だった。ジェイドは気をよくして、次々と作っていった。