カップル限定って色々ギリィッてなるよねって話
……何か色々おかしいのがいた。じゃあ何でお前二人で来てんだと突っ込みたくなるが、まぁ中にはこういう奴もいる。女の方はよくいるタイプだな。男の方を悪く言いつつ、その実女への僻みや妬みが強いタイプだ。
「羨ましい男だな、あんなかわいい娘といられるなんて。でも当然、君の方がかわいいけどね(本命の娘には断られちゃったしなー。まぁ、今日はコイツでいいか)」
「ふふっ、ありがとう♪私も貴方といられてシ・ア・ワ・セ♪(勿論嘘ですけどー。あ~あ、どっかにイイ男いないかなー)」
これは解り易いな。別に僕達への興味はそれほど無い様だ。しかし、お前等みたいのに食されるコーヒーゼリーが哀れすぎる……。
「お?どした?」
……何でもない。
今はこのコーヒーゼリーを堪能するべき至福の時間だ。
他の事は置いておこう。
そうして僕は、コーヒーゼリーを味わう事に集中した。
珈琲豆の芳醇な深い香りとコク。
添えられた生クリームも上品な甘みを持ち、コーヒーゼリーのもたらす心地好い苦味とのバランスが絶妙だ。
成程。これはなかなかの逸品だな。
「お、うまいか?」
もう何度目か、そう訊いてくる燃堂に頷く。
何がそんなに嬉しいのか、おお、そうか!!と笑う。
相変わらず勝手に喋り続けているが、時折そんな風に、確かめる様に訊いてくる。
そして。
「相棒にも教えてやんなきゃな!!お!!」
………。
だから何でそんなに嬉しそうなんだ。
僕に懐きすぎだろ。この店やコーヒーゼリーの事を僕に教えたから何だというんだ。
大体このコーヒーゼリーはチケットが無ければカップルしか頼めない物だから、正直教えられた所でだな…。
それにお前が食べた訳じゃないんだから実際の味なんてわかんないだろバカか。……うん、バカだったな。
コイツに味が解るとも思えんしな。食べた所で、この風味豊かな味わいを伝えられる筈も無い。
しかし本来ならコイツもコーヒーゼリーを食べていた筈なんだよな。元々『相棒』の方の僕にやるつもりだったらしいが。
だが今の僕はそっちの方の僕じゃないのだから、このコーヒーゼリーを食べる権利は無い訳で。……それを言ったらチケットを貰った事自体が大きな借りじゃないか。不本意すぎる。
……仕方無い。
最後の一口は格別なんだがな。
流石にドリンク一つというのもアレだろうし。
僕は溜息を吐き、器に残る最後の一口を掬った。
そのまま燃堂の前に持っていく。
「お?なんだ?」
いいからさっさと食え。曲がりなりにも女の姿だから出来る真似だぞ。別にカップルな訳じゃないが、こんな事出来るのは周りから見ればカップルと認識されている今しかないだろ。
……どうせ味なんてわからんだろうが、食った感想をその『相棒』とやらに伝えてやれ。
燃堂がぱちくりと目を瞬かせ、
「おー!!オメー、イイヤツだな!!」
快活に笑って、そう言った。
次の日。学校にて。
「そんでよー、そいつ相棒にすげえ似ててなー。イイヤツなとこもおんなじだったぜ!!」
相も変わらず、燃堂が一方的にくっちゃべっていた。
「そいつがくれたコーヒーゼリー、うまかったんだぜ!!お!!」
作ったのは店の人だろ。
………それにしても、今日は朝からこの話ばかりだな。
「面妖な……。いくらイイヤツと言っても、仮にも女子がしかも初対面でこんなモンスターと……ハッ!!ダークリユニオンか!!」
違います。
今日も平常だな、純平。
まぁ気持ちは解るけれども。
「おぉ?何言ってんだオメー?」
「燃堂……お前、何か仕掛けられたのではないか?そのコーヒーゼリーに何か……ハッ!!お前……爆発するのか……!?」
どんな恐ろしい仕掛けだそれは。一体何が仕込まれてたんだ物騒すぎるだろ。
「とにかくその店一緒に行こーぜ!!お!!チビもどうしてもってんなら来てもいーぜ?」
この流れも相変わらずだな。
「ま、まぁ、斉木が行くなら構わないが……(友達と喫茶店とか初めてだよ……緊張するなぁ……)」
海藤……周り女子ばかりだけど大丈夫か?あとはカップルばかりだぞ?男三人で行く様な店じゃないぞ?視線が怖いぞ?………いや、今更かもしれないが。
「お!!そいつともまた会えるといーな!!」
……残念ながらそれは無理だ。
というかお前、あれだけ反応薄かった女子に何を求めているんだ。
「そいつと相棒が食ってるトコ、すげー似てんだぜ!!」
……一緒に食えという事か。
いや、だからそんなん見て何が楽しいんだよお前は。
「お?何でだろなー……まぁいいじゃねーか!!」
よくねーよ。
本人が解っていない以上、突っ込んだ所で無意味だが。
「何だ?もしかしてお前、その子に惚れたのか?」
「お?」
海藤、何訊いてんだお前は。
それ肯定されても否定されても微妙なんだけど。何か複雑なんだけど。
………うん?何でだ?
「わかんねーけど、また会いてーな!!」
「お前なぁ……」
本当に本能で生きてるなコイツ。
……肯定も否定もされなかった事に何故か安堵しながらも、どこかモヤモヤとした気持ちを抱えている自分に、僕は気付きつつも無視をする。
だって、おかしいじゃないか。
コイツが楠子に惚れた所で、関係無いというのに。それは僕ではあるが僕じゃないのだから。
惚れていなくても同じ事だろう。まぁ、燃堂ごときに何とも思われていないというのも癪だが、変に執着されるよりいいだろう。
……しかし手ずから食わせてもらっておいて、何とも思わないとかちょっと失礼じゃないか?少しくらい意識するだろ普通。……いや、惚れてほしい訳じゃない。そういう訳ではないんだが……。
「お?どーした相棒?」
………何でもない。
考えたって答が出る筈も無いんだから、これ以上考えるだけ無駄だ。
僕はそう断じて、意識を切り替える。
あの店にこの悪目立ちしかしない面子で行く訳にはいかない。回避の方法を模索しなければ。
女体化も暫くしない方がいいだろうな。何だかんだでまた燃堂と店に入る羽目になりそうだ。
………………。
カップル限定スイーツか……。
昨日はあのチケットがあったので、カップルとして頼んだ訳じゃないが、またあの企画やりそうだな。忌々しい。
そして、そんな時に限ってコイツと鉢合わせしそうな気がする。
ちら、と燃堂を見ると目が合った。
へらりと笑みを返してくる。
だから何でそんな嬉しそうに締まりの無い笑みを向けてくるのか。
………まぁ、そんな事はそう何度も無いだろうが、もしあったらその時は、一緒に店に入るのもアリだろう。
一方的にくっちゃべっているだけで、僕のスイーツタイムの邪魔をする訳でもないのだからな。
コイツは底抜けのバカなんだから、カップル云々は誤魔化せる筈だ。多分。
「しかしお前、金足りるのか?俺は出してやらんぞ」
「テメー、オレ様を見くびんなよ!!心配いらねーぜ、福引で当たったソケットがあるからな!!」
チケットな。………って、あるのかよ!!しかも二枚だと!?
「何でそんな当たってんだよ……。あ、割引券とドリンク無料券か。……でもこれ、併用は出来ないぞ」
「お?」
作品名:カップル限定って色々ギリィッてなるよねって話 作家名:柳野 雫