ドキプリSS 「独りぼっちじゃない 真琴と猫の数日間」
「ジコチュー、やっておしまい!」
「ジコチュ~~~!」
間髪を入れず、ジコチューはプリキュアの前の地面を手で穿った。
「ジコ、ジコ~~~!」
連続で、右へ、左へ、プリキュアたちに強烈なパンチを入れるジコチュー。
「なんのこれしき! たあああ!」
ハートとロゼッタは飛びあがり、同時にジコチューに強烈な蹴りを入れた。
「ジコ~~」
一瞬怯むが、すぐに立ち上がり、ジコチューは再びハートたちに攻撃を入れる。
「こっちからもいくわよ。てやあああああああ!」
「わたくしも、はああああ!」
ダイヤモンドとエースもまた、ジコチューに向かって蹴りを入れようとした。
その時だった。
「ジコ~~、オ前モオリノ檻ニ入レテヤル~~」
「えっ?」
突然檻ジコチューの扉が開き、吸い込まれるかのようにダイヤモンドとエースが中に入れられていった。
「嘘!」
「ダイヤモンド! エース!」
ガシャンと重苦しい音を立てて、檻の扉が閉じてしまう。
「開けなさい、こらー!」
「ぷりきゅあノ見セ物ダアアアアア!」
ジコチューは小躍りしながら、どこからか取り出した鍵で扉に南京錠を掛ける。
「くっ、この扉とても頑丈です!」
なんとかダイヤモンドとエースは脱出しようと檻に攻撃を加えるが、ビクともしない。
「ふたりとも、今助けるからね!」
ハートとロゼッタは檻に跳びかかった。
「ふんっ!」
何度も攻撃を加えて扉を壊そうとするが、これまた壊れる気配などまったくない。
「駄目、堅すぎるよ」
「邪魔ダァ、オリノ檻ニ入リヤガレ~~~」
再び檻の扉が開き、そして――。
「きゃあああああ!」
ハートとロゼッタもまた中に吸い込まれていった。
「みんな!」
「おーほっほっほ、あとはあなただけね、キュアソード!」
マーモの高笑いとジコチューの小躍りに、ソードは愕然となってしまう。
――また、守れないの?
トランプ王国を守れなかったときの、あの絶望感。もう二度と味わいたくなかったあの気持ちが、再び蘇ってくるかのようだった。
アンも守れない、そして今度は仲間も守れない。
結局自分は何も守れないのか、ソードは悔しさでいっぱいになっていった。
――いや、まだだ!
拳をぐっと握り締め、ソードはラブハートアローをジコチューに向ける。
「プリキュア・スパークルソ……」
「あらあら、大事なお仲間を攻撃するつもり?」
マーモに窘められ、ソードは静かにラブハートアローを下ろす。
「言っておくけど、迂闊な攻撃は閉じ込められているお仲間にもダメージが届くわよ」
マーモは更に挑発する。
「そんな……」
「キュアソード! 私たちにかまわず撃って!」
「でも……」
もしハートたちに攻撃が当たったら……そう考えると、ソードは攻撃が出来ない。
守れないどころか、今度は自分が大切な仲間を傷つけてしまうのか。
もう、そんなのは嫌だ。それならいっそ……。
「ぷりきゅあノ見セ物ダァ、コレヲミンナニ見セビラカシテヤルンダァ!」
――違う!
ソードは再び拳を握り締めた。
「最低ね、あなた。今までで一番腹が立ったジコチューよ!」
「なぁに? 落ち込んだり立ち上がったり、忙しい子ね」
ソードは思いっきりジコチューを睨みつけた。
「人に自慢することしか考えていない、でも自分は何も持っていない。だからアンを見せびらかして偉そうにするしかない。ただの臆病者よ」
「ジコ?」
「何ごちゃごちゃ言ってるの?」
マーモは眉間に皺を寄せた。
「でも! そんなあなたでもアンはずっと愛していた! あなたの帰りを待っていた! どうしてその愛に気づいてあげられないの!?」
「ソード……」
やっと気づいた。
ソードはもう一人じゃない。仲間も、ファンも、みんないる。
けど、それは数の問題ではない。同じプリキュアとして、パートナーとして、同級生として、ファンとして――キュアソード、剣崎真琴を皆が愛している。
誰一人として欠けてはならない、そういう存在だ。それはアンにとってあの飼い主も同じことなのだ。
「私はあなたを救ってみせる。あなたを愛する、アンのために! このキュアソードが、愛の剣で、あなたの野望を断ち切ってみせる!」
ソードはラブハートアローを構えた。
「あらあら、こんな男を救うために、大事な仲間を攻撃しちゃうわけ?」
「その男も救う! そして、みんなも救う! それが、キュアソードの、『勇気の刃よ!』」
「あらそう。なら勝手になさい!」
「ソード!」キュアハートが叫んだ。「私たちなら大丈夫だよ!」
「私たちはソードのこと信じているから!」
「もうあなたは一人ではありませんわ!」
「この愛を無くしたジコチューに、あなたの愛を届けてあげなさい」
閉じ込められたプリキュアたちが満面の笑みでソードに語りかける。
「みんな……」
「ええい、どいつもこいつも! ジコチュー、やっておしまい!」
「ジコ~~~! オリニ説教シヤガッテ~~~!」
ジコチューはソード目掛けて走り出した。
――あそこだ。
ふとソードの目に、ジコチューが掛けた南京錠が止まった。もしあそこに当てられれば、皆が脱出できるかもしれない。
一か八かの賭けだったが、ソードはラブハートアローをそこに向けた。
「プリキュア・スパークルソード!」
ソードのアローから、一斉に剣が放たれた。
「ジコ~~~!」
なんとか避けようとするジコチューだったが、その瞬間――。
パリーン――!
ソードの放った剣が南京錠に当たり、鍵が音を立てて壊れた。
「ジコ? ジコ~~~~見セ物ガァ~~~~~」
開いた扉から、プリキュアたちが一斉に飛び出していく。
「悪いけど、わたくしたちはあなたの見世物になる気はさらさらありません」
「ありがとう、ソード!」
「礼を言っている暇はないわ! いくわよ!」
「うん!」
「マジカルラブリーパッド!」
プリキュアたちの手に現れたマジカルラブリーパッドにキュアラビーズをはめこむと、エネルギーカードが現れた。
「私たちの力をキュアハートの元へ!」
ダイヤモンド、ロゼッタ、ソード、そしてエースはハートのラブリーパッドにカードを送った。
そしてキュアハートはそこにハートマークを描くと、更なるエネルギーカードが現れ、
「プリキュア・ラブリーストレートフラーッシュ!」
強力なカードを、ジコチューへと飛ばした。
「ジコ、ジコ~~~~」と避ける間もなくカードはジコチューに当たり、やがて
「ラブ、ラブ、ラーブ!」
ジコチューは浄化されて、元のプシュケーへと戻っていった。
「ちっ、覚えてらっしゃい!」
悔しそうに、マーモはひゅん、とどこかへ消えていった。
作品名:ドキプリSS 「独りぼっちじゃない 真琴と猫の数日間」 作家名:パーム