黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 12
少し歩いた先にあったのは二つの独特の装飾の柱、それぞれにナバホ、イエグロスの名が刻まれている。その更に前に、二つの洞窟への穴が空いていた。
「トライアルロードはこの二つの洞窟を通り、どちらが先に頂上へ行けるか競争し、そしてそこで決闘を行う」
モアパは説明した。
「洞窟の道は非常なまでに過酷だ。故にいかに体力を温存できるかが鍵となろう」
ヴィンがその続きをした。
「この柱を境とし、スタートラインしよう。君達から選んでくれたまえ」
ガルシア達は左を選んだ。
「ならば我々はこちらだ」
モアパ達は右側へ行った。
「では私のかけ声にて始めよう。いちにのさんで戦闘開始だ」
「あなたに任せて大丈夫かしら?ズルしないでよね」
シバは挑発的に言う。
「モアパは武人だ。その様なことはせん」
挑発には乗らず、答えた。
「では準備はいいな?」
いいわよ、シバが言うと、決戦へのカウントダウンが始まった。
※※※
さすがに伝説の英雄二人が戦ったという岩山である。トライアルロードの道のりは凄まじく険しいものだった。大の男でも途中で音を上げるのも当然である。
しかし、そんな試練の道を難なく乗り越えてしまう不確定要素の存在もあった。
普通に自らの手足で登ったのであれば、彼らにでさえ難しい道であった事だろう。しかし、エナジーの存在は険しい道をまるで何ともないものとする不確定要素を生み出したのだ。
シバを先頭に、ジャスミン、ガルシアとトライアルロードの天辺へと差し掛かった。様々な試練を、エナジーを駆使して、彼女らはここまでやってきたのだった。
邪魔になる障害物は『ムーブ』でどかし、行く手を遮る砂山は『スピン』で吹き飛ばした。
余りに急勾配の道は『プロミネンス』を翼に変えたジャスミンを先に上へ行かせ、そこから『リリース』で放られたロープで残る二人を引き上げさせたりもした。
伝説の勇者達も苦労したというトライアルロードも、エナジスト達の手に掛かれば何の苦もなかった。
当然の如く、先に頂上にたどり着いたのはシバ達であった。
しかし、モアパ達もほぼ同じ頃に到達した。エナジストと全く拮抗した競走を行っていたらしい、さすが村に名だたる三人の戦士、といったところか。
「何と!先に到達していたとは!?」
モアパは驚き言った。その驚きはかなりのものだった。というのもモアパはそれほどでもないが、ヴィンとウィンドの兄弟はすっかり息を切らしていた。歴戦の戦士ですら息切れを起こすというのに、ガルシアはともかく女子供のシバやジャスミンまでもろくに息を乱していなかったからだ。
若干の疲弊が見える中だが、戦いはこれからが本番を迎える。
「いいや、闘いはこれからだ!全員まとめて勝負だ!」
モアパは剣を抜きはなった。ヴィン達も戦斧を取り出す、少しの間でだいぶ息は整ってきている。やはり並の鍛え方はしていないらしい。
ガルシアもシルバーブレードを抜き、ジャスミンは炎を纏った。
「行くぞ!」
ヴィンはガルシア目掛けて戦斧を振り上げた。しかし、元々小回りの利かない大型の武器で尚且つ疲弊している状態であってはその筋はあっさりと見切る事ができた。
ガルシアは戦斧を見切られ隙だらけとなったヴィンの懐に入り、柄先で鳩尾を突いた。
ヴィンは膝を付き気を失った。
『プロミネンス・ファイア!』
ジャスミンは体に纏った炎をウィンドへと放った。
「ぐわあああ!!」
ウィンドは炎に包まれ、その場に倒れ込んだ。そして意識を失った。
「安心して、死なない程度に力を抑えたから」
エナジーとは使用者の意志が反映されるものである。命をも奪うほどの威力が出るのかどうかは使用者の気持ちそのものに委ねられる。
そこでジャスミンは力を調節したのだ。ウィンドの体を燃やす事なく、気を失わせる程度の衝撃を与えるだけに。
「ヴィン、ウィンド!」
戦闘開始早々に仲間二人がやられてしまった。常識で考えて、勝負はこれで決まったも同然。しかし、モアパは闘いを諦めようとはしなかった。
「例え私が一人になろうとも、やるべき事は一つ、全員まとめて…」
「そんなの、フェアじゃないわね」
モアパの言葉はシバに遮られた。
「ここは私達で一対一の勝負にしましょう」
モアパは一瞬驚きを見せたが、引き下がらなかった。
「何を言う!?三対三での勝負を申し出たのはモアパの方だ!その三人の内二人を先に破ったのは君達だ、そのまま全員でモアパにかかってくるがいい!」
シバはため息をついた。
「元々これは私達の問題よ、シャーマンの杖を持つ者とグラビティの翡翠を持つ者だけが戦うべき、私はそう思うわ」
ねえ二人とも、とシバはガルシア達を向き、一対一で戦うことに同意を求めた。
「そんな、シバ一人で戦うなんて…!?」
たかだか14歳の少女が大の大人に、それもこのトライアルロードを自らの足で登り詰めてもろくに息切れもしなかった男にまともに挑むなど、ジャスミンには無謀な気がしたのだ。
しかし、隣に立っていたガルシアはシバの思いを汲み取って剣をしまった。
「兄さん!?」
「そう心配するな、ジャスミン。エナジーの力があれば十分戦える。それに、俺もよって集ってなぶるような真似事はごめんだ」
ガルシアはシバに全てを任せるつもりだった。こうなっては、ジャスミンもガルシアに従うしかなかった。
「私の仲間も同意してくれたわ。というわけであなたもネチネチ悩むのは止めなさい」
情けを受けるようで、武人としてなかなか納得できずにいたが、遂にはモアパも一対一の戦いに同意することにした。
「分かった、君の挑戦、心して受けよう」
三人で一人を相手にするということは可能だった。まさしくシバにとってこの一対一の戦いは挑戦であった。
まるでナバホとイエグロスの戦いだ、モアパは思うのだった。そして、同時にナバホ同様に勝利を収めよう、そう決意する。
「改めて名乗ろう、私の名はモアパ。君の名は…?」
「…シバ、ギアナのシバ!」
モアパは構えた。
「シバ、君の得物は?」
シバはシャーマンの杖を取り出した。
「もうしばらく拝借するわ、あなたを倒すまでね…」
「ふむ、その杖はかなりの上物だ、もちろん武器としてもな。心して使ってくれ」
「杖の使い方は心得てるわ、心配しないで」
「ふ、ではお喋りはこの辺にしようか、シバ!」
「ええ、全力で行くわ、モアパ!」
シバが杖を構えると、伝説の戦いが再来したかのようにシバとモアパの戦いも始まった。
まず最初に攻め込んだのはモアパであった。剣を振り上げ、袈裟斬りをしかける。刃が触れるか否かの所でシバは見切り、杖の頭を下げ、上がった先端部をがら空きとなったモアパの脇腹目掛けて突き出した。
モアパもこれだけで終わるような男ではない、肋間を突いてくる杖を剣で体を翻して弾き、シバの体勢を崩す。その瞬間、隙が出来たシバの頭を狙った。
しかし、まだ勝負はつかない。シバは杖を手繰り、その中心を握ると、頭の上に置いた。これによりモアパの剣は受け流され、今度はモアパの頭上が疎かとなる。シバはすかさず右に出、杖を振り上げ剣のように、モアパの頭を狙って振り下ろした。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 12 作家名:綾田宗