君と過ごす何気ない日常
僕が料理をする訳
コトコトコト。
煮込み料理は煮込む時間と冷まし置く時間が大切。
コトコトコト。
沸騰する鍋をお玉でグリグリ掻き混ぜて、一度味を見る為小皿に取る。
舐めた味の感想は “ 悪くは無い ”。それだけで、これといって感動する事もなく火を止める。
今更自分の作った料理に感動も何もない。
必要だから作っている、ただそれだけ。
なのに、背後からトコトコとやって来ては僕の肩越しに鍋を覗き込み「それなぁに? 味見したい」なんて言う彼と言う存在があるから。小皿に垂らした少量のそれを舐めて、「うわこれ美味しい!」なんて歓喜の声を上げるから。
だから、何故だろう胸が暖かかくなって、頬が緩んで、鍋を掻き混ぜる手が軽くなるような気がするんだ。
おかしいね。
本当に君には負けるよ、なんて思いが過るのに口にはできない僕は、代わりに「それは良かったね」とだけ、可愛くない言葉を吐き出して鍋に蓋をする。そんな自分を情けないと思わなくもないのだけれど、それでも彼は未だ嬉しげに「ああ夕飯が楽しみ~」と笑うから。
ああ、義務のように続けている料理も悪くない、と。その度再確認させられるのだ。
2013/10
作品名:君と過ごす何気ない日常 作家名:とまる