君と過ごす何気ない日常
畳とロマン
畳はいいね。
凄く、いいと思う。
この独特の匂いもそうだし、背中や頭を預けた時の感触がまた、たまらない。
凄く、いいと思う。
だから良く、こうして寝転がって天井を仰ぐ。
古い家だから、シミが多い・・・と言うより寧ろシミが無い部分の方が少ない、笑える天井。不思議とね、シミだらけの天井を見つめている思いっきり吹き出してしまってあの子に変な奴を見たという顔をされる。別にいいんだけどね、ちょっと傷つくくらいで。
今日もまた、畳の上にごろりと寝転がり天井を見上げる。と、そこにあの子が通りかかった。「はい邪魔邪魔。寝転がってるだけなら端っこ行ってろよ」なんて冷たい言葉をぶんなげながら。
いや、まぁ、ね。確かに部屋の中央で寝転がってた僕が悪かったとは思うけどね、だから別にいいんだけどね、やっぱりちょっと傷つくよね。
そんなあの子を追うように身を捩り顔を、あの子が消えた庭へと向けた。
縁側よりサンダルに足を通し、ぱたぱたと草の上を進むあの子。腕の中には洗濯籠が収まっていた。僕と、あの子の二人分の洗濯物。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけね、洗濯機の中で僕とあの子の下着がぶつかり絡まりあうのを想像して、にやけてしまった。
そんな僕の耳の届く、パシンッ、という綺麗な音。
あの子が、シーツを払った音だ。
皺を伸ばすように勢いよく打ち払う。それを竿に掛け、丁寧に引っ張り伸ばし、洗濯ばさみで留める。手慣れた仕草で次から次へと洗濯物を干してゆくあの子におお、と感動の声を上げた。
俗に言う『男のロマン』とか言われるあれ、あの、好きな子が嫁みたいなことしてると胸キュンするってやつ。違ったっけ? よく分からないけど、今まで周りにあれこれ語られてもいまいちピンとこなかったそれ。未だにわからないままだけど、今、こうして洗濯物を干しているあの子を見ると心が洗われる様な気分になる。
とても、綺麗だと、思うんだ。
光を浴びて、白いシーツを干すあの子が持つ静謐な空気。
僕の、心震わせる唯一。
結局、男のロマンは分からないままだけれども、僕には一つ、確かなものがある
ああ、愛おしい。
あの子を思う、この想い。
2013/10
作品名:君と過ごす何気ない日常 作家名:とまる