君と過ごす何気ない日常
湯呑みと煎餅
お茶でも飲もうかと急須と湯のみをもって居間へ移動した。すると、縁側に続く窓際で、外に向かって座る彼が新聞紙を読んでいた。窓はいつもの如く全開。風もないし、寧ろ日当たりはいい場所だから新聞を読むなら外で読んだ方が良いような気がするのになぜか、ぎりぎり室内に腰を据えていた。
猫のように丸々とした背中を見て、何とも言えない気分になる。
普段あんなに姿勢のいい彼が、不思議と新聞を読むときだけ猫背になる。彼には散々「君って猫背だよね。もう少し姿勢、良くすればいいのに」なんてことを言われるわけだがこうしてみると何と言うか、人のこと言えないよな、と思ってしまう。
目が悪いわけではない筈なのに、どうしてだろう。もしかしたら癖なのかもしれない。
取りあえず、新聞に集中しているようだから静かにお茶でも入れておいてあげよう。
コトリ、と卓上に湯呑を置き、台所に通じる入口横に置いてある茶棚の中、収めてあるポットを引き出すと急須の中にお湯を注いだ。ああ、いい加減ポットを置く棚が欲しい。こんな所に収めておくのはどうにも、面倒。
コポコポコポという音を立てながらお湯を注ぎ、ふたを閉めて一度軽く揺らしてから卓上へ。確か、せんべいがあったはず。思い出した茶菓子の存在に腰を上げ、台所へと戻ると食器棚の下よりせんべいの袋を取り出した。行儀悪く足先で扉を閉め、居間へと戻る。と、いつの間にか彼がテーブルの前に鎮座していた。綺麗な正座で。
どうしたの、と驚き訊ねればいい匂いがした、と答えるから思わず笑ってしまった。
僕の手の中のおせんべいの袋を見て一層、そわそわしだす彼に益々笑い、ちょっと待ってね、と彼に袋を手渡すと彼に開封してもらう傍ら僕は彼専用の湯呑へお茶を注いだ。
丸テーブルに二人並んで緑茶タイム。
中々におつだね、と言えば中々におつだよと返る。
なら今度は、さらに空気を出して羊羹でも買っておこうかな、そんな事を思った。
2013/10
作品名:君と過ごす何気ない日常 作家名:とまる