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僕は摂氏36度で君に溶ける

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結果だけ言えば、リヴァイは壁外調査で圧倒的な力を見せつけた。

通常初陣では比較的安全な場所に配置されるが、リヴァイはかなりの最前線におかれた。それはエルヴィンの采配であったので、信用されているようで嬉しくもあり、しかし結局道具としてしか見られていないことがひどく哀しくもあった。けれども道具としてエルヴィンに必要とされることがリヴァイの存在意義であり、それはリヴァイ自身が望んだことだ。

ずっと欲していた存在意義を望むことが、エルヴィンに愛されたいという願いを阻む。抜き差しならぬ状況は、板ばさみであり、リヴァイはその訳のわからない自分の気持ちに押しつぶされそうだった。もうなにも考えたくない。

巨人を倒している間だけは、エルヴィンへの恋心を忘れることができた。死への恐怖と戦い、目の前の存在を殺すことに精一杯だからだ。巨人を殺すことは、エルヴィンのためにも、自分のためにもなる。

自分は巨人の殺戮兵器となるのだ。


翌日、通常の業務に戻ったエルヴィンはリヴァイへの個人授業を再開した。壁外調査までの二週間、エルヴィンは忙しく、なんだかんだずっとハンジが授業を受け持っていた。よって、二人でゆっくり話すというのも久しぶりである。

「そういえば、リヴァイ。お偉いさんたちが君のことをずいぶん気に入ったようでね。君を連れてきた私の評価も上がって、昇級の話もあるんだ」

やけに機嫌がいいと思ったら、そんなことが。嬉しそうにするエルヴィンが、リヴァイの胸をくすぐる。

「君の戦闘も素晴らしかったよ。初陣であれだけの討伐数は前代未聞だ」
よくやった。
言葉と共にぽんぽん、とエルヴィンが頭を撫でる。

褒められた。
リヴァイは頬がじわじわと熱くなるのを感じる。

「これからも、頼むよ」

こくこくと無言で頭を縦にふったのは、言葉が出なかったからだ。

嬉しい、嬉しい、嬉しい。リヴァイの中で喜びが爆発している。心臓が苦しくて息が難しい。リヴァイは黙り込んで俯いてしまった。

「リヴァイ?」

不審に思ったのか、エルヴィンがリヴァイの名を呼ぶが、リヴァイは顔を上げることができない。
「顔を、洗ってくる」

「ああ。戻ってきたら勉強を再開するよ?」

訝しむ視線を背に受けつつ、エルヴィンから顔を背けて執務室を出た。



そんな風にエルヴィンからの賞賛の言葉を糧にして何体もの巨人を倒してきた。エルヴィンに褒められることにはいまだ慣れないが、巨人討伐には慣れと余裕の見えてきた四回目の壁外調査。


帰路のこと。

最前列で指揮をとるエルヴィンに一体の巨人が襲いかかった。共に先頭を駆けていたリヴァイはエルヴィンを狙う巨人と戦おうとして、小さな体躯をその手にとらえられてしまった。巨人に掴まれるという初めての経験が、リヴァイを戦かせる。

近づいてくる巨人の口。

そこから覗く巨大な歯。

目が釘付けになる。

鋭利な歯が腹に突き刺さる、その瞬間。

エルヴィンが自分の名を呼ぶのを聞いた。

はっと我に帰り、間一髪、右腕を振り抜く。ブレードが巨人の口を切り裂く。

生温い血が腹部から流れているのを感じつつ、巨人の口の中から脱出した。その拍子に、その高さから落下しながら、リヴァイは意識を失った。
作品名:僕は摂氏36度で君に溶ける 作家名:かん