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僕は摂氏36度で君に溶ける

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「君には調査兵団に入って人類のために戦ってもらう」
エルヴィンは懇願でも相談でもなく断定の形で告げた。

今日はもう遅いし、とりあえず我が家に招待しよう、というエルヴィンの申し出により、リヴァイはエルヴィンの家へ向かうこととなった。その家路でのこと。

雪で白くなった地上の土地を自分の足で踏む。
ただそれだけのことも、今のリヴァイにはとても神聖な行為に思えた。

「巨人について、君はどれくらいのことを知っている?」

「さあ。あんたよりでかいってことぐらいだ」
サクサク
道行く他人は皆、クリスマスを謳歌している。家族、恋人、友人。そういった関係の人間たちが行き交う中、リヴァイとエルヴィンの組み合わせはおかしなものだった。片や調査兵団の証である自由の翼を背負った大柄の美丈夫、片やついさっきまで地下街にいたという雰囲気を隠しきれない小柄で目つきの悪い青年。しかし自分のことでいっぱいの往来の人々はそんな二人を気にもとめない。

周囲の喧騒と裏腹に、二人に流れた沈黙。リヴァイは隣を歩くエルヴィンの顔を見上げた。そこには笑いをこらえるように眉根を寄せたおかしな顔。
「おい」

「すまない、君があまりに面白いことを言うものだから。そりゃ、私よりも大きいさ。かなりね」

大真面目な自分の発言を笑われて、リヴァイは口を尖らせた。
「あと、人を喰うんだろ」

「そうだ。奴等は人類の、敵だ」
今まで紳士的だったエルヴィンが急に殺気立った。

「奴等に勝つためには圧倒的な知恵と戦闘力が必要だ。私と、君がね」

「ほう」
巨人と、戦う。自分がどこまで巨人に通用するのか、知るのもいいと思った。どうせ無為に生きて死ぬ人生だった。何かのために散るのもいいだろう。それが、生きる意味になるのなら。

「よかった」
思わず本音が漏れた、というようにほろりとエルヴィンが言った。

「何がだ?」
リヴァイは訊ねる。

身長の差が大きいために歩幅もかなり違う二人が並んで歩くのはとても難しいことで、エルヴィンが歩くスピードをぎこちなく落としてみたり逆にリヴァイが少し早足になったりしながら、二人は道を行く。

「君が、来てくれて、ね。本当によかった」
エルヴィンはまた足を進める速度を意識してゆっくりにした。

「最初から自信満々だったくせによく言う」

「そんなことないさ。君にフられたらどうしようかと思っていた」

どうだか。思ったがリヴァイは口にしない。その真偽はリヴァイにはどうでもいいことであるからだ。エルヴィンがなぜこれほどに巨人を倒すことに執着しているのかも、自分には関係ないと思った。エルヴィンがどんな人間だったとしても、リヴァイは彼について行くことを自分の意思で決めた。彼が自分を必要だという限り、自分は彼に従うつもりである。


「あの角を右に曲がってすぐだ」

一目で高級住宅街とわかる閑静な街。何かの祝いごとの飾りが、普段は落ち着いているだろう通りを煌びやかに彩っている。リヴァイはそれをもの珍しそうに眺めながら尋ねた。

「なんかあるのか?」

「ああ、ちょうど今日がクリスマスだな」

「くりすます?」
聞き慣れないその単語を鸚鵡返しした。

「もう今は廃れてしまったが、昔あった宗教の祝いの日だ。これらの飾りは二週間近く前から今日のためにされていたんだ。ちなみに今では、クリスマスにはサンタクロースという白い髭のおじさんがプレゼントをくれる、という日だ」

ほらこの人だ、と指差す先には赤い服を着た老人が大きな白い袋を担いでいる様子を模した、大きな装飾物。飾られているのはこの小綺麗な住宅街にしては珍しく手入れのされていない、しかしとても大きな庭だ。庭の奥には二階建ての立派な家が建っている。エルヴィンは指をサンタクロースからその家に向けた。

「そして、ここが私の家だ」

荒れていてすまないね。エルヴィンは苦く笑いながらリヴァイをエスコートした。



玄関を入って開口一番にリヴァイは声を荒げた。

「きたねえ!」

外から見た様子ではどこぞの貴族の家かと思うほど大きく壮麗であったが、いかんせん中は汚い。綺麗好きのリヴァイの許容ラインを明らかに超えている。

「いや、本当にすまない。最近帰ることができていなくてね」
普段立ち入らない綺麗な部屋があるから、しばらくはそこを使ってくれ。

そう言われて案内された部屋を開けると、その風圧で室内の埃が舞った。
「おい」

「ははは」
凄むリヴァイにエルヴィンは参ったな、というように笑いを漏らした。
「唯一使っていて埃の溜まっていないのは私の寝室だが、そこでもよければ。今夜だけだから」

なだめるような言い方のエルヴィンに機嫌を悪くしながらも、リヴァイは苦々しくうなずいた。
「そうする。あと、風呂を使わせてほしい」

「わかった。その間に寝室を片付けておくよ。君は綺麗好きなんだね」

「悪いか」

むすっとするリヴァイを、再度エルヴィンがなだめた。
「いや、むしろ悪かったね、こんなところに連れてきて。これからだと宿はとれないだろうからね。特に今夜は」

さすがのリヴァイも地下街よりこの家が汚いとは露ほども思っていないしそれほど気にしているわけでもないが、ここは神妙に相槌をうっておいた。

「シャワーはこっちだよ。タオルと服は用意しておくから」

ソープ類も自由に使ってくれ、というエルヴィンの言葉にリヴァイは少し浮かれた。
地下街では節約のため石鹸は三日に一度しか使えなかったのだ。



エルヴィンの寝室だというそこは、寝るための部屋だというのにサイドテーブルに書類が山積みにされていた。

「君はここを使ってくれ。シーツは今替えたところだから」

エルヴィンの身の丈にあうように縦が長く、そして横幅も広い、とても大きなベッドが風呂上がりのリヴァイを待ち構えていた。

「お前は寝相が悪いのか?」
一人で寝るには大き過ぎるサイズにリヴァイは疑問を禁じえない。

「まあそんなところだ。では、私もシャワーを浴びてくる。その後はさっきの客間で寝るから。何かあれば声をかけてくれ」

「はあ?」
そう言って部屋を出て行こうとするエルヴィンにリヴァイは心底分からない、と疑問を投じる。
「なんでわざわざあんなとこで寝るんだよ?」

「いや、他に寝るところもないんだよ」

エルヴィンはおかしなことを言う。リヴァイは首をかしげた。
「ここで寝ればいいだろ?」

言った途端、エルヴィンの顔が強張った。

「私は君を、そういうつもりで連れて来たのでは、ない」

「そういうつもり、とは?」
何やら怒っているらしいエルヴィンに、リヴァイは控えめに訊ねる。

「君、同衾がどういうことか分かっていないのか?」

「どーきん?」
エルヴィンが難しい言葉を使うものだから、リヴァイには理解ができない。

「いや、知らないなら、いいんだ」
気が抜けたというように急に怖い顔をやめてエルヴィンが言った。
「分かった。私も今日はここで寝よう」

始めからそうすればいいだろうとリヴァイは思ったが、そもそもなぜエルヴィンが別のところで寝ると言い出したのか分からないので言葉を飲み込む。

「一つだけ」
作品名:僕は摂氏36度で君に溶ける 作家名:かん