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僕は摂氏36度で君に溶ける

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翌日、リヴァイは早朝からエルヴィンに連れ出された。自分を役職のある人たちに紹介するのだと言って、兵団の本部内を歩き回る。エルヴィンは終始穏やかな笑みを湛えていた。そのせいでエルヴィンが何を考えているのか察知できず、リヴァイは薄ら寒い気分だ。

今日は幸いにも雪は降っていない。しかしどんよりと曇った空と昨晩積もった雪が景色をモノクロにしている。それが、寂しさを胸に訴えてくる。リヴァイは身震いをした。


エルヴィンの上辺だけの表情が消えたのは、大男に紹介されたときだった。

「彼はミケ・ザカリアスだ。君は彼から立体機動装置の使い方を習うんだ。いいね?」

こいつこそが巨人か、と見間違うほどの長身。その男、ミケの顔が急に近づいてきてリヴァイは咄嗟に後ずさった。

「な、なんだ」

あのまま突っ立っていたら、首の辺りを噛みつかれでもしたのではないか。
そう思いリヴァイは本能的に恐怖を感じる。

そんなリヴァイを珍しそうに眺め、エルヴィンが言った。
「君の反射はなかなかのものだね。しかし、何もミケは君をとって食おうとしているわけではないから」

信用なるか、とリヴァイはもう一度ミケを見上げた。なんのつもりだ、とかなり上にあるその顔を睨みつける。

「ミケはね、初対面の人の臭いをかぐ癖があるんだ。おとなしく嗅がせてやりなさい」

よっ、というエルヴィンの掛け声。それと共にエルヴィンがリヴァイの体を、両脇を掴むかたちで持ち上げた。ミケとほぼ同じ高さまで上げられて、リヴァイはあまりのことに混乱して身動きが一切とれない。

すんすん。

「ひ」
あげそうになった悲鳴をすんでのところで飲み込む。

首元に顔を寄せて鼻を鳴らしたミケがつぶやく。
「石鹸の、いい香りがした」

「はあ?」
すとん、と降ろされ地に足のついたリヴァイは、抗議の眼差しをエルヴィンに送りながら、ミケに凄むという器用なことをしてみせた。

「ミケ、リヴァイとうまくやれそうかい?」

「ああ、素質がある」

一方的にうまくやられても困る。
リヴァイは自分を完全に無視したやりとりに放心しそうになった。

「ところでリヴァイ。君は見た目によらず結構重いね。何か理由が?」

「そんなん知るかよ」
無駄な脂肪どころか必要な脂肪も満足についていない自分の体を見下ろす。

「今日は挨拶回りが終わったら君の身体測定だね」
エルヴィンが爽やかに告げた。

そうやって自然に笑っていた方がいいぞ。心の中でリヴァイは呟いた。



帰宅したのは結局昨夜よりも遅い時間で、今日もリヴァイはエルヴィンと同じベッドで寝ることとなった。昨日と違うのは、今日はエルヴィンが先に湯汲みをした、ということ。つまり今、彼の後に風呂を借りたリヴァイが向かう部屋の先には、エルヴィンが既にいるということだ。無駄に広い廊下を行きながら、リヴァイは柄にもなく少し緊張している。

地下街では、自分が寝ているとそこに孤児が集まってきた。本能的にリヴァイの側が一番安全だと分かっていたのだろう。リヴァイもそんな子供たちを邪険にしなかったので、リヴァイにとって雑魚寝は毎日のことであった。

しかし、自ら他人の寝ているところへ潜り込んだ経験はない。若干ぎこちない足取りで寝室のドアの前までたどり着き、ドアノブに手を触れるが、中に入ろうという気がおこらない。逡巡していると、その気配を察知したらしいエルヴィンの声に、そんなところに立っていないで入りなさい、と導かれた。

するりと部屋に入り込む。

灯りを落とした部屋のベッドの中で、エルヴィンがこちらを見つめている。
「どうしたんだい?」

「いや、なんでもない」
家の中を移動するときに持ち歩いていたランプを吹き消すと、明かりは窓からの月のみになり一瞬視界が悪くなった。が、リヴァイは夜目は効くほうだ。しっかりとした、しかし躊躇いを含んだ足取りでベッドの脇に立つ。

「ほら、早く」
掛け布団をエルヴィンは持ち上げて促した。

「ん」

「今日は生娘のような反応じゃないか。いったいどうしたんだい」
からかうように笑うエルヴィン。

勘違いされては困る、とリヴァイは正直に話すことにした。
「自分から、他人ところに寝に行くことはなかった。あいつら勝手に来たから」

その言葉になぜかエルヴィンの雰囲気が剣呑になったのをリヴァイは肌で感じる。

「あいつら?複数で寝ていたのか?」
険しい表情で訊ねるエルヴィン。

「そうだが」
チラリと横目でエルヴィンの方を見やると、夜でも輝く綺麗な色の瞳がこちらを見据えていた。
「別に、地下街じゃ当たり前のことだ」
その口調が言い訳がましかったのか、余計にエルヴィンの眼差しがきつくなり、リヴァイは他の話題をさがすことにした。

「それより、お前の瞳はきれいだ」

「瞳?」

こくりと頷いてリヴァイは続ける。
「きれいな色だ。俺の目印にしていたスカーフと、同じ、あお」

自分の唯一の存在証明といってもよかったあの布。だがそれは逆に、あの布しかリヴァイを示すものがなかったということ。今のリヴァイには、リヴァイという名前と、調査兵団員という肩書き、そしてエルヴィンのために戦うという存在意義がある。その標識さえあればリヴァイはこの広い地上の世界でも迷うことなく生きていけるような気がした。エルヴィンへの感謝の気持ちが募る。

「何度も言うがわたしにその気はない。どこで覚えたのか知らないがそんな誘い文句にも惑わされないぞ」
もう寝なさい。

感謝の意を表そうとしたのに強烈なしっぺ返しをくらい、リヴァイは思わずポカンとした。

背を向けて黙秘を始めたエルヴィン。
昨日から自分の何が彼を怒らせてしまっているのかいまいち理解できないリヴァイは、そっちがその気なら、と同じように彼から顔を背けて瞼を落とす。


エルヴィン。
お前はいったい何を考えているんだ。彼の考えを知りたくなっている自分を自覚し、リヴァイは混乱した。信用したわけではない、はずだ。今日だって上層部に対する策略家で腹黒い一面を何度も見た。一方、ミケを含む一部の信頼のおける部下に見せた愛想のある笑みも、見た。どっちが本当のエルヴィンなのか、はたまたどちらも真のエルヴィンではないのか。確実に彼に惹かれつつある心を無視して、リヴァイは再度きつく目を閉じた。


それぞれの想いを内包して、夜は更けていく。
作品名:僕は摂氏36度で君に溶ける 作家名:かん