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僕は摂氏36度で君に溶ける

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三日後。
読み書きの訓練中のことである。数日にわたるエルヴィンの授業は、彼の執務室で彼の書類業務の合間をぬって行われていた。

話している言葉を「文字」という形で表記できるということは知識として知っていた。しかしリヴァイには文字を書いたり読んだりすることはできなかった。いわゆる非識字というものである。その練習も含め、簡単な計算や国の歴史など、さまざまなことを教わった。

巨人を殺すことができれば脳みそなんか必要ない、とリヴァイは最初思っていた。
だが今では、エルヴィンにも考えがあるのだろうと素直に従っている。
その従順さには自分でも頭を抱えるほどだ。

そんなリヴァイが最初に覚えたのは当たり前というべきか、自分の名前だった。名前のスペルとその文字個々の読み方を教えられて、ようやくエルヴィンがつけてくれた自分の名前を知る。たった四文字の一単語が、とても尊いものに思えた。

次に覚えたのは、エルヴィン・スミスの名前。
E-l-e-v-i-n
美しい彼の発音通りに文字を綴る。エルヴィンの名前の中に自分の名前と同じ文字列を見つけて、リヴァイはどこか落ち着かない気持ちになった。

もとの教養がなく、よくいえば純粋、悪くいえばすっからかんな脳は面白いほど簡単に知識を蓄えた。エルヴィンも教えがいがあると言わんばかりに新しいことをリヴァイに教授していく。

あの夜の翌日、リヴァイははじめに案内されたあの客室の掃除を徹底的に行い、そこをねぐらとした。それ以降はエルヴィンとの間には何もなかったかのように過ごしている。しかしリヴァイにはまだあのエルヴィンの怒りの意味が分からないでいた。


コンコン、とドアが叩かれた。ノック、というものだ。部屋に入るときは部屋の主の許可がいる。これもエルヴィンに教わったことだった。何せ地下街にいた頃は、盗みをするのに主の許可なんてもらえるはずがなかったから。

「エルヴィン、例の検査結果出たよ」

「入ってくれ」

このように勉強中に部屋へ兵士が入ってくることはよくあった。そのためリヴァイは顔を上げずに、手本にしているエルヴィンの文字を写す稽古を続けた。

「うわ、これが例の?数値では身長見たけどちっちぇえ!まじちっちぇえ!てかこれであの体重とかやっぱ信じらんねえ!わりに細っこいけどちゃんと飯食ってんの?」

無視しようとしたがあまりのうるささに、リヴァイは顔を上げて睨みつける。

「うわ、目つきわっる!ウケる!ミケから聞いてるけど立体機動かなりいいらしいじゃん!ねえ、どんな身体してんの?ちょっと脱いでよ!」

脱げ、という言葉と同時に手をわきわきと動かすのにギョッとしてリヴァイは立ち上がる。エルヴィンの執務机の横に設置された自分用の簡易デスクからも距離をとった。

ここには変人しかいねえのか。リヴァイは一人、ごちる。助けを求めるようにエルヴィンに視線をやると、楽しそうに笑っている。

「君の紹介がまだだったね。リヴァイ、こちらハンジ。ミケと同じく班長をしている」

これが班長だなんて、調査兵団の人手不足の噂は本当らしい。リヴァイは少々失礼なことを考えた。

「ハンジ、噂に聞いているとは思うが、これがリヴァイだ」

「ハンジ・ゾエ。巨人の研究をしてきる。よろしくね、リヴァイ」

右手を差し出され、リヴァイはその意味が分からずエルヴィンを見た。

「握手を求められているんだ。お互いの好意を示すものだよ。武器を持っていないことを表して敵意がないということも表現できる。こうやってするんだ」
エルヴィンがハンジの手を、手のひらを合わせる形で掴んだ。
「ほら、君も」

エルヴィンに促されて、リヴァイはハンジの右手を右手で握った。

「ていうか、握手知らないの?」

「お偉いさんにしかまだ紹介していないからね」

お偉いさんは握手をしなくていいのだろうか、とリヴァイは思った。そういえばやたら下卑た目で見られていた気もする。

「そうだ、ちょうどよかった。実は明日からちょっと会議で立て込んでいてね。しばらく王都に泊まるんだ。その間、リヴァイに勉強を教えてやってほしい。まあ、君の得意な巨人分野と、あと言葉だな」

この変人に教わるのか、とリヴァイは不満を感じたが、エルヴィンの判断だ。

「了解。リヴァイはここに泊まればどう?」

「そうだな。明日案内してやってくれ。ところでハンジ、君の用件は?」

「あっ、そうだそうだすっかり忘れてた。はい、これ」


どうやら話が終わったようなのでリヴァイはエルヴィンのデスクの隣に戻り、字の練習を再開した。

「でさ、見てよこれ。骨密度が普通の人よりかなり高い。体重も重いわけだ。骨が丈夫だから筋肉のリミッターを外しても壊れない。すごい身体だよ!」

「なるほど」

自分の話題かと思ってリヴァイが顔をあげるとハンジが目を輝かせて語っていた。
「小柄だけど軽すぎないし筋力がある。これほど立体機動に向いている人材もなかなかないよ!まさに巨人を倒すために生まれた、と言っても過言ではない。もっと詳しく調べたいぐらいだ!」

「そうかい、それは嬉しいよ」
ハンジの言葉にエルヴィンが笑みを浮かべた。

その顔は、上官と話すときの社交辞令じみた笑いでもなく、部下を労うときの愛想笑いでもない。思わずこぼれた、歓喜の心からの笑みであるようにリヴァイは感じた。

それが、純粋に嬉しかった。エルヴィンに必要とされているという実感がリヴァイの身体中に染み渡る。リヴァイは緩みそうになる口元を下唇を強く噛むことで誤魔化した。もう年も変わろうかという、年末のできごとだった。
作品名:僕は摂氏36度で君に溶ける 作家名:かん