僕は摂氏36度で君に溶ける
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「巨人は驚異的な生命力を持っている。どこを吹き飛ばしても再生してしまうんだ。確実に殺るためにはうなじを切り取らなくてはいけない」
熱く語るハンジは身振り手振りを交え、もはやリヴァイに話す、というよりは自分の脳内を垂れ流しているようにさえ見える。
今の話題はまだいいが、さっきまで語っていた巨人の出現に関するハンジ自身の推測は、リヴァイにとって本当に心底どうでもいいことだった。自分の目的はエルヴィンの、引いては人類のために巨人を殺しまくること。そのために必要なことなら勉学も厭わないが、巨人の歴史は正直どうでもいいと思う。
エルヴィンがここを離れて三日目。リヴァイが兵団宿舎のかたいベッドを使い始めて、三日目。
ベッドで寝られるなんて地下街にいた頃は想像もしていなかったのに、かたいと感じるなんて贅沢だ。しかし、人の温もりも、見知った人間の気配もないという珍しい状況もあいまって数日寝不足が続いていた。地下街時代は子どもが、地上に出てからエルヴィンが同じ家の中で共に寝ていたから。
「リヴァイ、聞いてる?」
思考がトリップしかけているリヴァイを素早く察知したようで、ハンジが声をかけた。
「聞いてる」
「いやいやいや、明らかに聞いてなかったよね?じゃあ巨人の弱点は?」
「うなじ」
「はあ、物覚えいいよねリヴァイって。教えてる方が楽しいね。エルヴィンも楽しそうだし」
エルヴィン、との言葉にリヴァイの耳がぴくりと反応する。
「一時はどうなるかと思ったけど、よかったよ」
どういうことだ、と目線で問いかける。
「あれ、聞いてないのかい?エルヴィンが巨人を倒す目的も?」
聞かない方がいいという本能的な危機感と、知りたいという好奇心がせめぎ合う。
「何も、聞いていない」
そう、自分はエルヴィンのことを何も知らない。リヴァイにとってエルヴィンは自分を必要としてくれる、という確かな存在意義がある。その事実に他に付加するべき情報はなかったのだ。ただ、なぜエルヴィンがそんなにも自分を必要とし、巨人を倒したがるのか、それは好奇心として胸の奥でくすぶっていた。
「私から話してもいいのかな?」
その問いはリヴァイに、というよりハンジ自身に向けられていた。
「私としては君に、エルヴィンを救ってほしいんだよね」
「救う?」
「そ。だからさ、元のエルヴィンに戻ってほしいわけ。それが必ずしもいいこととは言い切れないんだけどさ。で、これはごく最近の話だ」
そう前置きして、ハンジは語り出す。
作品名:僕は摂氏36度で君に溶ける 作家名:かん



