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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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とある夢幻の複写能力SS

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「やっぱり勝てるとすれば、奇跡が起こるくらいしか…」
奇跡
自身の言ったその言葉で、もう一人の超能力者は気づいた
「…そうだ、奇跡だ。奇跡を起こせばいい」
「えっ、天岡君、もしかして…」
叶は大きく頷いて言った
「ああ。歌ってくれ、鳴護。御坂と麦野を助けるために」
アリサは少し黙っていた
おそらく考え事をしているのだろう
数秒ほどの沈黙のあと、アリサは重々しく口を開いた
「ねぇ、天岡君。もし歌って奇跡を起こしたあとで、私が消えたりしたらどうする?」
叶はすぐには答えなかった
いや、答えられなかった
確かに前例がある
エンデュミオンの倒壊を防いだ時、アリサはシャットアウラと一体化し、消えた
それを心配しているのだろう
消えないとは言い切れない
しかし
「…消えさせない。もしそんなことがあっても、俺が全力で止めてやる」
叶は静かに言った
それは覚悟の現れだった
「ありがとう、叶君」
「俺は名前で呼ぶことを許した覚えはないぞ」
「苗字で呼べとも言ってないよね」
「…まあいいや。好きにしろ、アリサ」
叶は照れ臭そうにその名を呼んだ
おそらく、相手が名前で呼んでくれているのに、こちらが呼ばないのは失礼だろうと思ったのだろう
「やっと名前で読んでくれた。ありがと」
言葉を交わしたあと、二人は立ち上がった
「ひとつだけ条件があるの」
「…なんだよ」
ニッコリと笑ったアリサは、叶が想像だにしていなかった条件をたたき出した
「一緒に歌って」
「はい?」
叶は一瞬アリサの笑顔にときめいてしまったが、すぐに表情を戻して聞き返した
「だから、一緒に歌って。私一人じゃ、本当に出来るか分からないし、それに…」
アリサは叶の目を見て言った
「それに、君の声は綺麗だから、もしかしたら君にも奇跡が起こせるのかなー、なんて」
実際の話、叶にとっては願ってもない話だ
好きな人と歌える
しかも、その人から誘ってもらえているなんて断る理由が見つからなかった
故に叶は、こう答えることしか出来なかった
「…分かった。でも、曲はこっちが選んでいいか?」
「うん!何がいいのかな」
「そうだな…telepathはどうだ?あれが一番歌いやすい。俺が歌うにしても、二人で歌うにも」
「了解!」
叶は端末を操作し、目当ての曲を選び出す
そしてその再生画面を開いた
「…じゃあ、いくぞ」
「うん」
叶は曲の再生ボタンを押した
その刹那、ジャックしているスピーカーから曲が流れ出した
アリサの曲の一つ、「telepath〜光の塔〜」が流れ出した
「「今夜は星が綺麗ねだからきっと…届く!」」
音楽にのせて二人の声がこだまする
アリサの奇跡の歌声と、叶の女性のような綺麗な歌声
二つの歌声が交差し、戦っている者達の元へと届いた
「何だこの声…。さっきの変な音みたいに、体中に響いてくるぞ」
「でも、悪い気はしない。寧ろ心地いいくらいね。これが、アリサさんの歌よ。…なんであいつが歌ってるのかがちょっと理解できないんだけどね」
「アリサ…。ああ、鳴護アリサか。なんか聞いたことあると思ったらそういうことかよ!」
麦野は不思議と笑っていた
どうやら不快な思いはしていないらしい
寧ろ
「いい気分だ。こんな気分で戦うのは初めてだなァ!」
麦野は複数生み出した光の球からビームを発射した
それはまっすぐ桐原の元へと向かっていく
だがそれを桐原は電撃を帯びた手で弾いた
しかし、桐原はそれだけで手一杯のようだ
その証拠に彼のもう片方の手は、顔を抑えていた
「なんだ、この歌は…。この幻想御手には、ワクチンソフトは効かないはずだ…!一体何なんだ!!」
桐原は叫びながら右手を勢いよく広げ、電撃を放った
しかしその電撃が二人に当たることは無く、美琴によって逸らされる
しかも、いとも簡単にだ
「あれっ、さっきは逸らすのに結構苦労したのに、今はそんなにだなー。どうしてかなー?」
「くそっ!ネットワークから乖離されるぅ…」
桐原は着実に、自身の持つ能力を失っていた
恋査からもたらされた、借り物の能力を
そこからは早かった
能力を満足に使えない能力者など、超能力者にとってはただの的だ
美琴や麦野は、自身の能力を最大限に発揮して桐原を追い詰めていった
桐原はその攻撃を交わすことが精一杯で、反撃することが出来ていなかった
だが突然、二人の歌声が途絶えた
それはちょうど、一番を歌い終えて二番に入ろうとしていた時だった
「叶君!」
アリサの叫び声を聞いた美琴は、すぐさま振り返った
そこでは、どういう訳か叶が吐血をしていたのだ
しかも、全身から流血をしている
彼はあのような傷を負っていただろうか
だがそんなことを気にしてはいけなかった
「超電磁砲!」
突然麦野の声が聞こえた
美琴が元の場所へ向き直ると、軽自動車と思われるものが飛んできていた
おそらく桐原が近くにあったものを飛ばしたのだろう
気づいた時にはすでに美琴の目の前にあった
「こんなもので、倒せると思うな!」
美琴はすぐに車に電流を流して磁力で減速させた
そして目の前に来たところを全力で殴った
「さっきのお返しよ!」
電流を帯びた拳で殴られたそれが弾丸になり、少女の最大威力のレールガンが放たれた
それは一直線に桐原の元へ向かっていった
しかし桐原は地面に手をたたき付け、幾重もの壁を作り出してそれを止めた
「壁を生み出した?」
「さっき『八人目』が言ってたじゃないか。あいつの能力は物質錬成だと。それで作ったんだろ」
「じゃあ、あいつはもう他の能力は使えない訳ね」
これなら条件は一緒だ
ここぞとばかりに二人は桐原へけしかけていった
その頃
叶は心底苦しそうにしていた
「大丈夫?叶君」
「大丈夫だ。これくらいどうってことはない」
歌は中断しているものの、曲は続いている状態だった
歌うことは今すぐにでも再開できる
しかしアリサはそれをよしとしなかった
「なんでこんな傷が…」
「俺にだってわかんねぇよ。しかも、なんかこれが光ってるし」
叶はアリサに右手を見せた
そこには、父親から預かった指輪があった
「これは?」
「親父が預けていったもんだ。お守りかなんかだって思ってたが、違うらしいな」
その指輪についている橙色の宝石が光っていた
「全く、何なんだよこれは。迷惑ったらありゃしないぜ」
少年は、傷の割に軽口を叩いていた
「そんなこと言ってないで、早く手当を…」
「大丈夫だって。ほら」
叶は心配するアリサをよそに、腕にある傷から出た血を拭って見せた
するとそこにあったはずの傷が消えていた
「ちょっと能力使って回復させた。これで問題ないだろ。それに、こんな楽しいこと途中で放り出せないだろ!」
アリサは驚いた様子だったがすぐに笑顔になり、二人は揃って歌うことを再開した
すでに曲は終盤へと差し掛かっていた
二人は大きく息を吸い込み、そして声の限り歌った
「一人壊れそうな夜は勇気をくれた」
アリサがかわいい声で
「何があっても頭上で煌めいたポラリス」
叶が男らしからぬ綺麗な声で
それぞれ歌い上げる
叶はまた傷が開いていたが気にしていなかった
否、気にする余裕がなかった
アリサと歌うことに楽しみを見出だしていたからだ
すでに桐原は、自身の持つ能力以外を全て失っていた