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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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とある夢幻の複写能力SS

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しかし元々持つ能力で応戦していた
だが電撃使いへの対処なら未だしも、原子崩しへの対処が出来ず、すでに体はぼろぼろだった
「もうジリ貧じゃないかぁ!こんな―」
桐原は、言いたいことを言い切る前に口を閉ざされた
美琴によって感覚を麻痺させられ、神経系を遮断されたからだ
それ故に、恋査の入っている檻にもたれ掛かり、動けなくなっていた
「「幾千の時も声届けたい…この思い…!」」
叶とアリサが最後のフレーズを歌い上げるのとほぼ同時に、麦野は光球から光条を放った
「これで終わりだ!」
その光は、人一人を余裕で飲み込むほどの大きさを有していた
こんなものが当たれば一たまりもない
それどころか、一欠けらも残ることはないだろう
それは美琴も理解していた
だから、行動する
「何っ!?アタシの原子崩しが…」
突然麦野の放ったビームが逸れ、桐原の左腕と檻の端の部分のみをえぐった
「超電磁砲…」
麦野は、自身の能力を捩曲げた張本人を睨んでいた
しかし美琴は怖じけづく事なく言い返していた
「…別に殺すことはないでしょ。ちゃんと罪を償わせれば、それでいいでしょ」
麦野は特に反論することはなかった
少し舌打ちしたようだが、叶は聞かなかったことにした
「おい『八人目』。ギャラはアタシの口座に直接振り込んでおいてくれ」
「ちゃっかりしてるなぁ。まあ、了解だ」
それだけ言い残すと麦野は去っていった
「うおっ…」
「叶君!」
叶は歩いて美琴の元へ向かおうとしたが、足が縺れて叶うことはなかった
代わりにアリサに支えられ、逆に恥ずかしい思いをすることとなった
「あんた、大丈夫なの?」
「大丈夫だって。ちょっと貧血なくらいで」
「それでも大問題だよ!」
二人の少女は叶に肩を貸し、全員で桐原の元へと向かった
するとその傍には何処から現れたのか、ある程度若さの残った女性が立っていた
「あら、何か事件でもあった?」
「薬味久子…」
「あんた知り合い?」
美琴が聞いた
「いや、こいつは統括理事会のやつだ。直接会うのは初めてだな」
「どうも複写能力、初めまして。覚えてくれていて嬉しいわ」
「統括理事長とか学園都市事実上ナンバーツーとかと仲がいいと自然にあんたの名前も聞くっての」
叶は目を反らしながら答えた
勿論二人の少女は何も知らない
アレイスターのことも、冥土帰しのことも
「あなたが、超電磁砲ね。初めまして。紹介に預かったとおりよ。あなたは…あ、ARISAさんね。初めまして」
薬味は笑顔で二人に会釈をした
「ところで薬味さんよぅ、なんでここにいる?」
「たまたま通り掛かったところよ…っていうのは流石に怪しいか。実は上からの命令で、桐原史郎とファイブオーバーモデルケースオールマイティを回収して来いって言われてね」
「それであんたが直接来たのか?」
「そうよ。なんか、この件は上で対処するからって。そんなわけで、預かってもいいかしら。桐原史郎は監獄にでもぶち込んでおくから」
叶は少し悩んだ末に、答えを出した
「…お願いします。あと、救急車呼んでもらえませんか?」
「お安いご用よ」
薬味はすぐに携帯電話を取り出し、番号をプッシュした
すると数分ほどで救急車が来た
叶は担架に横になり、付き添いと言う形で美琴とアリサが乗り込んだ
「じゃあ、お願いします」
叶は薬味に一言残し、救急車は去っていった
故に、叶達は気づくことが出来なかった
薬味の口元が、少し歪んでいる事に



その後すぐ、叶は病院へ搬送された
勿論主治医のいる第七学区の病院だ
一応一通りの検査を受け、明日に精密検査をするということで検査入院をすることになっていた
「…まあ、ここに送り込まれるのが普通だよな」
「そうだね。君の面倒を見るのも、僕の仕事だからね」
カエル顔の医者―通称冥土帰しは言う
「…っと、傷に関しては君の能力で何とかなるだろうが、その傷が出来た原因が気になるね。一体何なんだね?」
「それが分かってたら苦労しないですよ…」
叶は苦笑しながら言った
冥土帰しは顎に手を当てながら考えていた
実は彼にはひとつだけ思い当たる節があった
しかしそれを叶に伝えることはなかった
「では、今日は能力を使い過ぎたようだから、安静にして体を休めるように」
「了解です、ドクター」
冥土帰しはそれだけ言い残すと病室から出て行った
すでに美琴とアリサは家に帰してある
アリサは帰る前にシャットアウラの病室へ寄っていたはずなので無事なのは確認できているだろう
それだけ思考して、叶は目をつぶった
夜も遅かったため、すぐに意識は遠のいて行った



その未明のこと
叶は目を覚ました
他に誰もいないはずの病室で物音がしたからだ
「誰…だ…?」
寝ぼけ眼をこすって物音のした方向を見る
その方向、入口付近に人がいるのが見えた
「起こしてしまったな、叶」
叶はその声に聞き覚えがあった
いや、聞き覚えどころではない
数年ほど聞いていなかったが、聞き違いをするような声ではなかった
「…親父…?」
その男はヘルメットを被っていて、叶は顔を視認することは叶わなかったが、声だけで判別は付いた
「親父…いつの間に…」
ある程度意識が覚醒し、状況が掴めるようになった叶は父親に聞いた
「いつの間に帰ってきてたんだよ。外にいたんじゃなかったのかよ」
外とは学園都市の外のことだ
訳あって父親は外で仕事をしている
その内容…いや、外に出た理由すら叶は知らなかった
「一昨日だ。ここへは、今日渡里和也に預けた指輪を回収しに来た」
「確かに預かったよ。これだろ…ってあれ」
叶は右手を出して見せた
しかしその指に嵌まっている指輪に異変が起きていた
ついているはずの橙色の石が消えていた
「悪いな、親父。どっかでなくしたみたいだ」
「いや、気にするな。なくなるものだったからな」
「えっ?」
叶は驚いた顔をした
すると父親は叶の嵌めている指輪を抜き取り、雑にポケットにしまった
「そんな扱いでいいのかよ…」
「いいんだ。…邪魔したな。もう眠っておけ」
「待てよ親父。聞きたい事がある」
叶は病室を出ようとする父親を引き止めた
「…なんだ」
父親は扉の前で振り返り、叶を見た
「今日、その指輪が光った時があったんだ。…その指輪って何だったんだ?」
父親は少し黙り、そして言った
「…直にわかる。お前に隠された本当の事とともに」
それだけ言い残して、ヘルメットの男は消えた
「待てよ親父!」
叶は叫んだ
しかし男が待つ気配はなかった
「親父…」
叶は閉まりかけている扉を睨んだ
「なんだよ、本当のことって…」
叶はそれに気を取られ、眠ることは出来なかった
翌日、叶は検査を受けて異常がないことを知らされ、そのまま退院した
「…なんか、取り越し苦労でしたね」
「だが、異常がなかっただけ検査をしたかいがあったというものだよ」
「それもそうですね。では、失礼します」
叶は主治医に一礼してその場を去った
シャットアウラは手がまだ治らないためもう少し入院するようだ
叶はそれだけ気になっていたが、気にしてもしょうがないということで何も考えずに病院を出た
「やっ、叶」
「うげっ」
その進行方向には、叶が今最も会いたくない人物がいた
「うげって酷いわね。迎えにきてあげたのに」