とある夢幻の複写能力SS
「だったら、普通にあいつをぶっ飛ばせばいいだけでしょ」
「なんでもいいが、早くけりをつけて帰りたいんだがな」
だが、二人の超能力者にはそんな心配は無用だったようだ
二人はそれまで緩んでいた顔を真剣なものに切り替え、桐原に立ち向かっていった
「麦野、気をつけろ。奴は俺と同等の力を持ってるぞ」
「複写能力が相手か。テメェを相手にするリハーサルになるな」
淡々とした言葉とともに麦野は早速粒子波形高速砲を飛ばした
無論桐原によってそれは弾かれる
刹那、そのビームの背後から一条の違う光が飛んできた
それは美琴が撃ち出した超電磁砲だった
流石に桐原にそれをいなす余裕は無く、それを避けるために空間移動した
「流石に、疑似複写能力なだけあるな」
「木山先生の時も思ったけど、色んな能力使ってくるのはやっぱりきつい…」
「だが、消し飛ばせばいいんだろ!」
麦野は周囲にあった光球からビームを打ち出した
それらは一つにまとまり、そして一本の極太ビームになって桐原に飛んでいった
狙いは外さなかった
しかし、桐原に当たることはなかった
桐原は極太のビームを学園都市最強の能力を以ってして反射したのだ
美琴はすぐさま反応した
近くにあった電柱に電流を流し、磁力を発生させて緊急回避した
しかし麦野はそのような回避方法は持っていない
しかもは相手はビームだ
形があるものとは違い、原子崩しを応用して形成した盾で防ぐことが出来ない
ビームを反らすことは出来るかもしれないが、太過ぎて反らしても掠ってしまうだろう
そのビームは、掠っただけでも命取りだ
触れることなんて、一片も許されない
どうするか
そう麦野が考えていた時だった
突然、自身の体が浮いて美琴がいる場所に飛んでいったのだ
「超電磁砲…テメェ…」
そう、美琴が能力を使って磁力で麦野を助けたのだ
少し引っ掛けるものを探すために時間がかかってギリギリになってしまったが、許容範囲だ
「なんで助けた」
麦野は怒りと惨めさを孕んだ声で聞いた
「勘違いしないで。足手まといにならないでって言ったでしょ。あんたにくたばられると、後々こっちが大変になるのよ」
麦野は軽く舌打ちをして桐原に向き直った
「さて、本気出しますかね」
「確かに、ちょっと手加減が過ぎたな」
二人揃って少年を睨む
「おやおやぁ?僕に勝てるとでも思っているのかなぁ?」
刹那、何処からかブチッ!!という音が聞こえたような気がした
そこで叶は気づいた
…あっ、キレた、と
「テメェ…」「あんたねぇ」
なんとも言えぬ怒りを孕んだ声で二人は叫んだ
「「いい加減、超能力者を甘く見てんじゃないわ(ねぇ)よ!!この三下がぁ!!」」
その怒声に桐原は一瞬物おじした
そして叶はこう思っていた
―いやいや、麦野はともかく御坂!
三下はねーよ!
仮にもお嬢様だろが!
無論口には出されなかったので美琴達には届かなかったが
というより、そんな余裕はなかった
能力者達が繰り広げるハイスピードなバトルを前に、それを目で追うことで精一杯だったからだ
刹那、桐原に異変が起きた
その背中から六枚の翼のようなものが生えてきたのだ
それは、何物も混ざらない純白の色をしていた
それを見て叶は気づいた
「お前ら、気をつけろ!あれは第二位の能力だ!!」
それを聞いて二人は一層気を引き締めた
「第二位…聞いたことあるわ。確か、この世に存在しない性質のものを作り出す能力」
「ああ。名は未元物質だったな。…ったく、どうやらあのオモチャは超能力を重点的に使えるようにカスタマイズされているようだな」
瞬間、桐原がその翼から牙のようなものを出してきた
その牙は自在に動き回り、美琴達の死角から攻撃してきた
「そんなもので私がやられるとでも!?」
しかし超能力者は甘くなかった
美琴は常に発生している電磁波から牙の動きを察知し、電撃を放って打ち落としていく
逆に麦野は、後方には出力を押さえて乱射し、前方へは『拡散支援半導体』を使ってビームを乱雑に飛ばして、それぞれ打ち落としていった
二人は、各々に降り懸かる驚異を取り除くことに必死になっていた
故に二つの目論見に気づけなかった
一つ目は、二人が個々に分断されている事
そしてもう一つは
「御坂、後ろだ!」
美琴は、叶の声に反応して後ろへ振り向いた
するとそこには、大きな球形の白い物体が存在していた
例えて言うならば、美琴が以前放ったレールガンの弾になったテレスティーナの乗っていたワークローダーの爪ぐらいの大きさだ
「もう遅いよぉ!」
桐原が体に帯電させながら言った
そして歯を食いしばりながらその球体を全力で殴った
すると桐原に帯電していた電流が拳を伝って球体に流れ、球体が帯電しながら撃ち出された
それは一本の太い光条を描きながら光の早さで美琴に向かって飛んできた
つまり、これは大型の弾丸を使ったレールガンである
形成された白い球体は、帯電する金属のような物質だった
それに気づけなかった美琴は、逃げることが出来なかった
緊急回避もすでに意味を成さない
―一か八かで、これを逸らせば!
美琴は全神経を集中して演算に取り掛かった
しかしそれすら意味を成さなかった
突然、美琴に当たる数メートルほど前で弾が消滅したからだ
勿論理由も無く消えた訳ではない
真横から横槍が入ったのだ
桐原から放たれたレールガンと同じ太さのビームの飛来という横槍が
「あんた…」
美琴はそれが何かをすぐに理解した
ビームの発射されたところに、その発信源がいたからだ
「勘違いするなよ。あたしはテメェに利用価値があるから見殺しにするには惜しいと思っただけだ。助けてもらったなんて思うなよ」
ビームを発射した張本人―麦野は美琴を睨みつつそう告げた
「…だが、これで貸し借りは無しだ。そういうのが嫌いなんでね」
「分かってる。でも一応言っておくわ。ありがとう」
「余計なことはいい。それより奴だ」
二人は改めて桐原を睨む
それを見て叶は、少し心配していた
頼もしいとは思う
超能力者第三位と第四位が共に戦っているからだ
しかし、拭えないものもあった
こちら側の戦闘のバリエーションは確かに多岐に富んでいて申し分はないが、相手と比べるとずいぶん見劣りしてしまうのだ
それは弱点にもなりうる
すでに、二人の超能力者は戦闘を再開していた
「…ねぇ…天岡君」
ふと聞こえてきた声に、叶は思考を中断させられた
それは思い人からの心配の声だった
「美琴ちゃん達、勝てるのかな…」
叶はすぐに言い返すために口を開いたが、考え直して閉じてしまった
ここで安易に安心させるようなことを言っても無駄だと分かっているからだ
ならば、正直に話した方が一番だ
そういうこともまた、叶は理解していた
「…正直に言って、無茶だよな…。ワクチンソフトも効かないみたいだ」
叶は先程から、端末のデータの中にある幻想御手のワクチンソフトを近くの放送用スピーカーをジャックして大音量で流していた
それには美琴も気づいているようだし、麦野も「どこかで聞いたことあるな…」などと言っているので桐原にも聞こえているだろう
しかし、全く堪える様子はなかった
つまりワクチンソフトは効いていないも同然だ
形勢は、桐原の方へと完全に傾いていた
作品名:とある夢幻の複写能力SS 作家名:無未河 大智/TTjr