とある夢幻の複写能力SS
「それ以外にも理由あるよな、絶対に」
「当たり前じゃない。統括理事長が顔出せってさ」
「やっぱりな…」
叶はがっくりと肩を落とした
「…まあ、色々やらかしたし、呼び出されるのは分かってたんだけどな」
叶は頭をかきながら言った
「で、すぐ行った方がいいんじゃない?」
「そうだな。行ってくるわ」
少年はそれだけ言い残してそこから消えた
刹那、紅葉の携帯電話に着信が来た
「"番号無しのことよろしく"か…。分かってるっての」
紅葉は空を見上げてつぶやいた
その頃
すでに叶はある場所に着いていた
窓の無いビル
文字通り、窓が無いビルだ
そこには入口すらない
入る方法はただ一つ
「…さてと、行くか」
叶はその場から消えた
"案内人"と呼ばれる空間移動能力者につれられて入るのが唯一の方法なのだ
だが叶はそれを必要としていなかった
「こんにちわ、統括理事長様」
『久しぶりだな、木原叶』
「あまりそっちで呼んで欲しくないなぁ…」
その中にある何かの液体に逆さで浸かった人間が答える
その液体は、周りの機械を含めて生命維持装置の役割をしていた
その中にいる人間はアレイスター=クロウリー
学園都市の統括理事長で、学園都市の創設者だ
「アレイスターさんよう、こんなとこまで呼び出して何の用だよ」
『勿論、滞空回線のことだ』
「ですよねー」
叶はふざけつつも言葉を返した
『君の持っているものと、君が機能をコピーした端末のリンクを解除した』
アレイスターはあまり口を動かさずに答えた
『だが、中に入っている情報はプレゼントだ。君の好きに使いたまえ』
「…それだけ言うために呼んだのか?別に呼ばなくても大丈夫な事じゃね?」
『それだけだと思うか?』
叶は顔を訝しめた
『ひとつだけ情報をやろう。昨日桐原史郎を回収した薬味久子。奴が桐原史郎のクライアントだ』
「何!?」
叶は驚いた
当然だ
叶に無害なふうに接して来た彼女が実は敵だった事に驚くのは無理も無い
「クソッ、あの時あいつがあそこにいたのは恋査と桐原の回収のためか…」
『まあ、それだけ教えてやろうと思ってな』
「…なんで教えた。あんたに教える義理は無いだろう」
アレイスターは含み笑いをして言った
『そんなもの、君が特別な存在だからだよ、『八人目』』
「どういう意味だよ…」
それ以上、アレイスターが何か言うことはなかった
―直に分かる。お前に隠された本当の事とともに
―そんなもの、君が特別な存在だからだよ、『八人目』
俺はこの二つのことが頭に引っ掛かっていた
揃いも揃って、何が言いたいんだ…
俺に、何が隠されてるってんだよ…
「あーもう!考えても埒があかねぇ!」
「叶君?」
気がついた時、目の前に少女がいた
窓の無いビルを出てぶらぶらと歩いていた俺は、どうやら第七学区の街中に着いていたようだった
「ああ、アリサか。こんなところでどうした?」
「うん、紅葉ちゃんがね、叶君がこの辺にいるだろうから迎えに行ってって」
どうやらいつの間にかアリサと仲良くなっていた紅葉がいらん気を回してくれたらしい
まあ、感謝はしておくか
「で、何の用事だったの?」
「ああ。人と会う用事があったんだ」
統括理事長と会う(アポなし)っていうな
「さっきなんか叫んでたのは?」
「ちょっと考え事してただけだ」
「ふーん」
どうやらちょっとうたぐっているらしい
だがまあ、話せるような内容ではないのでスルーしてもらうか
「なあ、もう昼だし、なんか食べに行かねーか?」
「話変えるの下手だね」
「ちょっとグサッと来たからやめて…」
俺は大袈裟に落ち込んでみた
「まあ、話したくない事もあるだろうし、聞かない事にするけど」
「助かる」
「でもこのままってのもあれだし、一つだけお願い聞いてくれないかな」
「お、おう。俺に出来ることならなんでも来いや」
俺がそう言うと、アリサはニッコリと笑って言った
「じゃあさ、今度路上ライブしようよ」
「…はい?」
俺は思わず聞き返してしまった
「だーかーらっ、今度路上ライブしよ!」
「聞こえなかった訳じゃねぇ!いやそうじゃなくてどういう事だってばよ」
どこかで聞いたことある口調になってしまったが気にするな
それよりもだ
「…あの時は他に誰もいなかったから歌っただけで、流石に誰かに聞かれるのはちょっと…」
「以外とシャイなんだね。でも気にしなくてもいいよ。歌うだけじゃなくて、楽器も出来たりするならそれでもいいんだけど」
どうやら何がなんでも俺と一緒にライブがしたいらしい
…先に折れた方が身のためみたいだな
「…分かったよ。とりあえず、予定とか立てようぜ。話はそれからだ」
「ありがとう、叶君!」
そして俺達は近くのレストランで食事をしながらライブの日取りなどを練った
勿論、俺がメシ代はおごったさ
「…とまあ、こんなところだ」
「ふーん、色々大変だったんだな」
「おいおい、そんだけかよ」
叶は上条にツッコミを入れた
だがこの反応も仕方ないだろう
何故なら、あったことの半分も伝えていないのだから
例えば、ファイブオーバーのこと
これを伝えれば、自身がアレイスターと話したことまで伝えねばならない
その他色々なことを知られたくなかったので、叶はある程度のことは伏せて不自然にならないように伝えた
あとで叶がアリサに聞いたのだが、あの檻は防音性が優れていて、外で聞こえていた音は全て聞こえないようになっていたようだ
「まあ、そんでシャットアウラ。お前。手は大丈夫なのか?」
「ああ、確かに昨日退院したのだが、少しの間左手が動かせないな。もっとも、指は動くから日常生活に支障はないが」
シャットアウラは左手を見せた
その手首には包帯が撒いてあり、大きな傷を負っているのが容易に想像できる
「だが、奴は確かに強かった。もう少し鍛練が足りんな」
「無茶しないでねアウラちゃん。訓練も手が治るまでおやすみしてね」
力のなさを悔やんで左手を握りしめるシャットアウラを、アリサが宥める
「わかっているさ」
端から見れば、二人は本当の兄弟のように見える
「あっ、やべっ!!もうこんな時間か」
「どうかしたか?」
慌てる上条に叶が聞く
「もう昼前じゃん!これじゃ同居人が腹空かせて待ってるぜ」
「あー…」
上条の言葉に、アリサが納得する
「あれ、上条の寮って男子寮じゃなかったっけ」
「そうなんですけどねぇ…」
何故か上条は遠い目をした
それを見てアリサも苦笑いをする
無論アリサが上条の家で匿われていたことは叶も知っている
それでアリサが上条の言葉に納得しているのも分かる
「…なんか、面倒臭そうだから聞くのやめとくわ」
叶は聞くことを放棄した
「じゃあ、俺は帰るわ。お茶代、ここ置いとくぞ」
「いや、俺が払っとくからいいぞ」
「馬鹿言うな。流石に上条さんも人に払わせるようなことはしたくないのですよ」
そう言って上条は五百円玉をテーブルに置いて店を出た
「あっ…行っちまいやがった」
「どうしようか、これから」
「…やることもないし、行くか」
三人は頷き合い、それぞれ会計を済ませて店を出た
とりあえず上条の分の釣りは握って置くことにする
と言っても数十円だが
三人は一斉に走り出した
無論上条を追うためだ
作品名:とある夢幻の複写能力SS 作家名:無未河 大智/TTjr