とある夢幻の複写能力SS
逆に遥は女の子らしい振る舞いをする娘なので、男子からの人気は高い
なので叶は、どうしてこの二人の仲がいいのか微妙に理解できないのである
「はぁ…。まあいいや、さっさと行こうぜ。津島、頼んだ」
「はい、任せてください!」
そしてこの少女が津島奈美(つしま なみ)
今回の行動班唯一の中学生で、常盤台中学の二年生だ
ただし、中学生といっても平均身長よりも大分小さめだが
ちなみに祐樹の教え子でもある
「では、こっちです。既に被害者の方々が集まっているようです」
奈美の案内に、叶、雫香、遥の三人が続く
「しっかし、やっぱ俺目立つよな…」
「当たり前でしょ。女子三人の中に男が一人混ざってるんだから」
「てかさ、他の女子はどうしたよ。奴らも行く気満々だったじゃないか」
「あーそれがねぇ…」
遥は困った顔で答えた
「ほら、あれだよ。うちの支部の掟、あるでしょ」
「…確か、そんなのあったな。えっと、『小型案件なら小数精鋭、大型案件なら精鋭筆頭大型部隊』…だっけか」
「それそれ。実は、この案件が小型案件に分類されちゃって…。それで仕方なく小数精鋭でって事になっちゃったんだ」
「…ちなみに分類したのは?」
「倉橋君」
「野郎…どう見ても大型案件じゃねーか。負傷者もいるのに」
ちなみに倉橋とは、前日の聖戦で叶に敗れて惜しくも二位になった少年だ
勿論案件分類を操作したのは叶への嫌がらせである
「戻ったらぶっ飛ばしてやる」
「程ほどにお願いします…」
そして案内されるがままに数分歩くと、会議室のような所へと到着した
「ここです。じゃあ、開けますね」
奈美は目の前の扉を押した
しかしびくともしない
ノブをがちゃがちゃとやるが開く気配はない
「あれっ、おかしいな…」
だが叶は気づいていた
ドアノブのすぐ上にある、「引く」という表示に
というわけで助言してやることにした
「なあ、津島。それ、引くんじゃないのか?」
「へっ?」
言われるまま、奈美は扉を引いた
「あっ…」
見る見るうちにその顔が赤く染まって行く
「しっ、失礼しました!」
「いやいや…。ほ、ほら、相手さんも待ってるし、早く入ろ?」
うろたえる奈美に、素早く遥がフォローを入れた
「失礼します」
そして叶が代表して挨拶をした
「よく来たね、風紀委員第一七六支部の諸君」
その部屋には、中年くらいの男性が一人と叶の母親くらいの女性が一人、そして茶髪の少女が一人いた
というより
「…って、母さんじゃねーか!」
叶の母親のような女性ではなく、正しくその人だった
「叶、ここは理事長室よ」
「おっと、すみません、えーっと…」
「海原だ。自己紹介が遅れて済まなかったな」
海原と名乗った男性は、席を立って叶の前に立ち、握手を求めた
彼は学舎の園へ我が物顔で入ることの出来る数少ない男性だ
「いえ、こちらこそすみません。突然騒ぎだして」
叶も快く握手に応じた
そして手短に挨拶をする
「本件担当の風紀委員第一七六支部所属、天岡叶です」
「そうか、君が天岡先生の。無理もないさ。自分の母親がこの案件の担当だなんて聞いたら驚くだろう…とは言うが、君は知らなかったのかい?」
「ええ、全く。母がこの案件に関わっているなんて露知らず…」
「…天岡先生?」
海原は目を祐樹に向けた
「ごめんなさい、理事長。あと叶も、驚かせたわね」
「まったくだよ」
そして海原は、同様に残り三人の少女と握手をした
握手を終えた海原は元いた場所に戻り、その近くに立つ少女に話題を向けた
「…この件には、彼女の力を使ってやってほしい。名前くらいは聞いたことあるんじゃないかな?」
叶はその顔を見た瞬間、それが誰なのかすぐに分かった
「超電磁砲…御坂美琴…」
「そうだ。やはり有名人だな、御坂君」
彼女は叶達を一瞥し、それから笑いかけて自己紹介をした
「どうも、天岡さんの言ったとおり、御坂美琴です。今回は捜査に尽力させていただくつもりですので、よろしくお願いします」
明らかにテンプレートな自己紹介だ
「どうも、よろしく」
とうわけで叶もテンプレートで済ませた
だが、その手が彼女に向かって伸びていた
勿論握手を交わすためだ
少女は一瞬怪しんだが、すぐにその手を握った
刹那、彼女は全身に違和感を感じた
言うなれば、全身に電流が走るような感じ
だが彼女が発する能力による物ではない
「…アンタ、何したの?」
「素が出てるぞお嬢様。さっきみたいにおしとやかには出来ないの…か…?」
叶は言った瞬間後悔した
なぜならその少女の体から電流が溢れていたからだ
「やめなさい、御坂君」
しかし理事長の一言により、それはおさまった
「天岡君、何かしたかね?」
「いえ、俺は何もしていませんよ。体が勝手にやったことですので」
海原は顔を訝しめた
超電磁砲の少女以外の人間全てがさも当たり前のような顔をしていたからだ
「…君、能力は何だね?」
「超能力、複写能力」
叶は包み隠さず全てを話した
「都市伝説の『八人目』ってのは、俺の事ですよ」
「…で、アンタが『八人目』だってのは本当なの?」
美琴が叶に聞いた
今は理事長先導の元連れて来られた別の会議室で、そこに集められた今回の事件の被害者に事情聴取をしているところだ
ちなみに美琴は風紀委員ではない事で、叶は男性なので話しにくいだろうという事で、それぞれ外されている
「だから本当だって言ってんだろ。さっき見せたじゃないか
」
叶は、ここに来るまでの道中で海原と美琴に自身が持つ能力をいくつか見せていた
「だからって信用出来ないわよ。あの人達が協力してるかもしれないじゃない」
あの人達とは、同僚達の事なのだろう
「ま、それもそうか」
叶は手を目の前に出し、指を一回弾いた
すると人差し指に火が灯った
その指を振って火を消し、今度は親指と人差し指に力を込めた
刹那、その間に電流が走った
「目に見える能力はこんなもんか」
「…どうやらホントみたいね」
「分かってくれたか」
「まあね。一応、『八人目』に関してはある程度知ってたし。実在するだなんて思わなかったけど」
「言葉遣い言葉遣い」
叶は美琴の崩れているそれにツッコミを入れた
「あー、あれは外向けの顔よ。アンタがただの高校生じゃないって分かった時点で、そんなの使う気失せたわよ」
「さいですか。…っと、終わったみたいだな」
そうこうしているうちに事情聴取が終わった
「どうだ、だいたい話はまとまったか?」
叶は出てきた三人の少女に話を聞いた
「うん。それがね、みんな同じようなことを言ってるの」
先陣を切って答えたのは遥だ
「同じような事?」
「ああ。どうやら、黒いローブを纏った怪しい者とすれ違った瞬間、体の数箇所に切り傷が出来たらしい。写真やらで傷を見たが、確かに刃物で切られたような傷だった」
続いて雫香がまとめたことを報告した
「…つまり、切り裂きジルと同じような手口ってことか」
「切り裂きジル…ですか?」
奈美が疑問を浮かべた
おなじように遥と雫香も疑問を浮かべた
「ああ、それは―」
作品名:とある夢幻の複写能力SS 作家名:無未河 大智/TTjr