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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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とある夢幻の複写能力SS

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「切り裂きジルっていうのは、1900年代にイギリスのロンドンであった切り裂き魔の事です。元は、切り裂きジャックの事を指しますが、その被害者が女性、しかも既婚者ばかりだったため、犯人が女性であるという説が浮上し、一時期そう呼ばれていました」
説明しようとした叶を遮り、代わりに美琴が答えた
「よく知ってるな御坂」
「別に、常識でしょ」
「普通は切り裂き魔の事なんて知りません」
叶は少し咳ばらいをし、そしてそこにいる人間に向けて話した
「今回のクロは、おそらく…というより、十中八九能力者だ。それは、すれ違っただけで人体を切り裂くということから窺い知れるが、とりあえず、捜査に夢中になって油断はしないように。それから、行動はツーマンセルで行こうか。じゃあ、誰かと組んでくれ」
叶は手を叩いてそこにいる人間に促した
「じゃあ奈美ちゃん、行こっか」
「はい!遥先輩、お願いします!」
「あの、天岡先生、お願いできますか?」
「いいわよ、有田さん」
…と、既にペアは出来ていた
そして自動的に、残った二人がペアを組むことになった
「…よろしく」
「…ええ、よろしく」
二人はそれぞれ、嫌みたっぷりに言葉を交わしていた



「あのさぁ」
美琴が重苦しく口を開いた
あの後、手分けして捜査をするため、各組に分かれていた
ただし、事件は常盤台の近くで起きており、被害者も常盤台生に限られているため、捜査はその周辺に限られている
当の叶達は、正門周辺で検問紛いの物を敷いていた
その時の事である
「…なんだよ」
「アンタのその能力なんだけど、都市伝説の一つになってるって言ってたわよね」
「ああ」
「…それって、どんな物なの?」
叶は美琴の疑問を聞いて目を丸くした
「…常盤台のお嬢様は、都市伝説のことを知らないのか?」
「しょうがないでしょ。興味ないし、八人目の超能力者がいるってことは知っててもそんな都市伝説なんて聞いたこともなかったんだから」
「…それもそうか」
叶は渋々という感じで納得し、話しはじめた
「あの都市伝説は、『八人目』っていう名前が付いていてな。内容は、学園都市には七人の超能力者がいるが実はもう一人超能力者がいる。そいつは、他人の能力を複写してその能力を扱うことの出来る能力者だ、というもんだ」
「…実際にコピーされて言うのもナンだけど、本当にそんな都市伝説あるの?」
「調べてみろよ。お得意のクラッキングで」
無論美琴はこんなところでそんなことはしない
後の事なのだが、彼女がこの都市伝説のことを聞くのは、佐天涙子と友達になってからの話だ
「さて、今は暇だが、そろそろ仕事しないとな」
叶は美琴の後ろへ指を指した
そこには大人数の女学生がこちらへ歩いて来る姿があった
「そうね。…とりあえずなんか困ったら言って」
「もう慣れたよ」
その後、叶は女学生達からの冷ややかな視線を受けながら聞き込みを始めた
聞き込み自体は慣れていたのでそんなに困らなかった
叶はその余裕を使って美琴を脇目で見た
勿論逆に美琴が困っていないかを見るためだ
だがそれはいらぬ心配だったようだ
彼女の人望は、叶が予想していた以上に厚かったようなのだ
美琴は聞いた全員の証言を纏めて叶の所へやってきた
既にピークは過ぎていた
「やっぱダメね。さっき伝えられた以上のことは聞けなかったわ」
「こっちもだ。目撃証言の一つもなかった」
二人は大きなため息を吐いた
「どうする?どっか移動するか?」
「それが良さそうね」
二人はその後の予定を決めようと話し合った
しかしそれが叶うことはなかった
突然叶の携帯電話が鳴り出した
「悪ぃ、電話だ」
叶はすぐにそれに出る
「もしも―」
『天岡先輩!』
いつものノリで電話に出ようとした叶の第一声は、奈美の危機迫った声により掻き消された
「…どうした、津島」
『遥先輩が…』
「一回落ち着け。谷崎がどうした?」
叶は冷静に奈美の言葉を待った
『遥先輩が、通り魔に襲われました!』
「何!?」
叶はそこで初めて驚きを隠せなくなった
「もしかして、例の…」
『はい。切り裂きジルかと思われます』
「分かった、すぐ行く。今どこにいる?」
『学校の裏門です』
「待ってろ」
叶はそれだけ言い残し、電話を切った
「まさか、襲われたの?」
「ああ。どうやらクロがやってくれたらしい」
叶はすぐに知り得た情報を伝えた
「頼む。裏門まで案内してくれ」
「分かった。最短ルートで行くから、ちゃんと着いてきなさいよ」
「上等だ」
美琴は学校の屋上にある避雷針へ向けて電撃を放った
叶もそれに倣って電撃を飛ばす
そして二人は磁力を使って跳躍した
二人の超能力者は、瞬く間に建物を飛び越えて学校の裏門へと到着した
「津島!!谷崎は!?」
地面に足が着くと同時に叶は叫んだ
「天岡先輩…。それに、御坂様…」
叶の声に奈美が反応する
彼女は膝を地面につけて座り、必死で遥の応急処置をしていた
その甲斐もあり既に出血は止まっているようだが、すぐにでも病院へ運ばなければいけないのは明白だった
「容態はどうだ?」
「一応血は止めました。ですが、危険な状態です」
奈美は震えた声で報告を続ける
「犯人は今雫香先輩と天岡先生が追ってくれています」
「そうか。で、救急車は呼んだか?」
「既に呼んでます」
「よく頑張ったな。後は任せろ」
叶はそう言いながら奈美の頭を撫でた
「…子供扱いしないでくださいよ」
そう言いながらも奈美は嬉しそうだ
「悪いな。昔からの癖でな」
その相手が誰か、というのはまた別の話だ
「さて、そろそろ母さん達を追い掛けるわ」
叶は立ち上がり、美琴と顔を合わせて二人で頷いた
「待…って…天岡…君」
刹那、叶の耳にか細い声が聞こえた
「谷崎!?大丈夫か?」
叶はすぐに彼女の元へと寄った
「大丈…夫。ごめ…んね…心配…かけて」
「無理すんな。ちゃんと奴を確保して来るから」
「うん…ありがと」
遥は出来る限りの笑顔で叶達へ話しかける
「…それでさ…天岡君」
「おう」
「私の能力…使って…。そうじゃないと、雫香ちゃん達に…追いつけないよ…きっと」
「いいのかよ」
…遥は叶のことを想っている
それを叶は気づかないふりをしている
それは、叶が遥を傷つけないためだ
叶には既に、想い人がいた
それについても遥は知っていた
故に近頃、遥は叶を避けていた
叶はあまり気に留めていなかったものの、今の事で少し驚いたのだ
「だって、緊急事態でしょ?」
叶は、こんな時にでも仕事を優先する遥に対してある一つの思いを告げて、その手に触れた
「…すまんな。力、借りるぞ」
そして叶は遥の能力を複写した
能力名は、地点躍動(ポイントジャンプ)
空間移動系能力の中で三番目に演算が難しいといわれている能力だ
今でこそ常盤台の空間移動能力者などの上位互換の能力者の影に隠れてしまったが、黄鐘大付属では叶や紅葉と並んで高位能力者として名を馳せている遥の能力だ
この能力は、座標移動と非常によく似ているが、移動する際の目標対象が違う
座標移動の場合、座標から座標に移動する
しかし地点跳躍の場合、地点から地点に移動する
つまり、脳内で地図に緯線と経線を引き、それにより出来た正方形を地点とし、その地点と地点と移動するのだ