yamatoへ… ユキバージョン 1
「そうか…じゃぁ塾のスピードもう少し上げるか?」
浜崎の言葉にユキの顔がパッと明るくなる。
「本当?」(ユキ)
「その代り全国で1位を取るんだ。塾のテストも学校の全国一斉テストも。」
塾の全国一斉テストは月に一度行われていた。ユキは常の上位で1位を取った事もある。
「わかりました。ここからはどちらもパーフェクト目指します。」
ユキは塾のテストも全国一斉テストもパーフェクト宣言をした。
「座って!テストを始める!」
国立小学校の子供たちの間にも“またかよ”という空気が流れている。ここ最近、突発で何度も何度も国の一斉テストがあった。
「先生、それって成績に響くんですか?」
ひとりの女子が聞いた。三カ月に一度行われている全国一斉テストはきちんと日が決まっているので不定期で行われるテストに子供たちは不安そうだった。
「いや、実は私達が採点してるわけではないのだ。だからキミ達がどれだけ
点を取っているのか、も知らないんだ。これは国が6年生だけを対象に
行っているテストで…。」
先生もバツ悪そうに答える。最初の頃は前の席から順番にテストを回していたが回数を重ねる毎に名前順に席を替わり先生が名前とテスト用紙を確認しながら配るように変わっていた。
(内容が一人一人違う?って事かしら)
ユキは自分のテストを見てそう思った。明らかに最初のテストより難しくなってきている。それでもまだ全然余裕だったのか“難しい”と思うレベルではなかったが。
「どうだった?」
ユキは塾の自習室にいた。
「先生…完璧です。多分満点取れてると思います。」
ユキは自習室で今日の問題を思い出しそれを浜崎に見せた。
「これ…解いたの?」
浜崎も驚くぐらい難問が並んでいた。
「私もちょっと難しい、って思いました。けどほら、ここ……先生に教えて
もらったでしょう?本当先生のおかげ。ここで先生がどんどん進もう、
って言ってくれなかったらここまで勉強できてたか…先生、ありがとう。」
ユキは笑顔でお礼を言った。
同じ学校で同じ塾に行っている子供たちもユキを見る眼が変わっていた。明らかに今までのユキと違う。大学生を対象としたゼミも通うようになっていた。
「森さん、ちょっと職員室まで来てもらえる?」
授業が終わり食堂へ移動する子供の中のユキを捕まえて担任がユキに声を掛けてきた。ユキはクラスの女子と一緒だったが“ごめんね”と言いながら先生について行った。
先生の後ろについて行くと通されたのは職員室ではなく校長室だった。
「え?校長先生の部屋?」
少し深めの絨毯をおそるおそる踏みながらソファーに座ると校長が別の扉から入ってきた。
「ごめんね、お昼休みなのにね。」
校長もユキの前に座る。ユキの横には担任が座っていた。
「後でご両親にも連絡するけど先に森さんに伝えておこうと思ってね。」
校長は言葉を選びながら話してる、そんな感じだった。
「国の一斉テスト、頑張ったね。結果を言うと森さんが全国1位。
そこで…飛び級の話が来ているんだ。」(校長)
「飛び級、ですか。」
ユキは驚いていなかった。このまま国立中学へ進みなさい、と言われた方が驚きだと思っていた。
「本来ならその子に合った学力に応じた学校へ進学させるのだがこの国の
一斉テストは別の意味がある。」
校長が話してる途中で廊下に面してる扉からノックの音が聞こえた。
「どうぞ。」
校長が声を掛けると一人の男が入ってきた。
「地球防衛軍、議長の山村です」
そう名乗った男は深く頭を下げると校長室へ入り校長の横に座った。
「あなたが森さん…初めまして。山村です。」
山村はユキに握手を求めた。ユキは何が何だかわからないまま握手をする。
「あなたの成績を拝見させていただきました。大変優秀で感心しました。」
山村はそう言うと校長の顔を見た。
「森さん、あなたを訓練予備生として九州の佐世保にある軍の訓練学校へ
通わせたい、とそう言っておられます。訓練予備生とは昨年から始まった
制度で優秀な成績を収めた小学生を地球防衛軍だけでなく世界の中心を
司るブレーンを育てるために英才教育をしようと作られた組織です。
ご両親も一緒の時に、って思ったが森さんはどちらかと言うと先に聞きたい
タイプだと思ってこうしたんだが…」
無言で聞いているユキに校長が話しにくそうに言う。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 1 作家名:kei