yamatoへ… ユキバージョン 1
「まだ…母には話していないのですか?」
ユキがパッと顔をあげる。
「先に話した方がよかったか?」(校長)
「いえ…多分何を話しても“普通の中学に進みなさい”しか言わないと
思うので…自宅には連絡しないでください。」
ユキはじっと校長を見た。
「それと…私予備生になりません。」
ユキの言葉に誰もが驚いた。
「森さん!」
担任が慌てる。
「キミは…何か考えている事があるね。」
山村だけがにこやかに笑って話しかけた。校長も担任も二人を交互に見て何も言えなかった。ユキは山村の顔を見てこの人は信用できる人なのだろうか、としばらくじっと見つめた
「森さんは慎重な性格らしい。確かに急に呼び出されてテストが一番だった
からさぁ訓練生になりなさい。“はい、じゃぁそうします”とはいかない
はずだ。」
山村はにっこり笑ってユキを見つめる。
「大丈夫、キミは普通だよ。」
山村の言葉にユキはぎこちなく笑った。
「私…お医者さんになりたいんです。予備生になる、って事は将来軍人さんに
なる、って事ですよね。私は医者になってけがをしてる人を救いたい、って
思っているんです。よその国に落ちた遊星爆弾で苦しんでいる人を助けたい
って思っています。私は予備生にならないといけないんですか?」
ユキが小さな声だったけど山村に訴えた。
「そうか…森さんは夢を持っているんだね。」
地球のあちこちで遊星爆弾が落ちてたくさんの犠牲者が出ている事は誰もが知っている事だった。
「日本にも…きっといつか落ちてくる…そう思うと一日でも早くお医者さんに
なりたい、って思うんです。」
ユキの眼は力強かった。
「じゃぁキミの希望は医大のある大学ならいいかね?」
山村の言葉にユキが眼を見開く。
「ただ…九州にある大学では引き受けられないだろう。中央病院なら…いいと
思うのだが…12歳で九州とトウキョウ…すぐに帰れる距離ではない。
少しご両親と相談するといい。」
山村の言葉にユキが立ちあがった。
「行きます…両親が何と言っても私、行って勉強したい。お願いします、
私をその大学に入れてください!お願いします。そこへ行くためなら
何でもしますから!」
ユキは90度に頭を下げた。
「森さんが最後に受けた試験…あれはね実は偶然なんだが中央病院付属大学の
入試問題の模試だったんだ。森さんは見事合格点を取った。模試だけど実際
の去年の入試問題とほぼ同じものを使った。少し上の者と相談するがいい
返事が出来ると思うよ。」
山村がにこやかにユキを見る。
「キミは勉強だけでなく運動神経もいいみたいだね。過去の成績表を見せて
もらったよ。もし医師以外でなりたい職業ってなにかな?」
山村の問いにユキは少し頭をひねった。
「そうですね…次に浮かぶのがパイロット…とか、でしょうか。自由に空を
飛べるってすごい事だなって…あの、すみません…。」
真っ赤な顔のユキに山村が笑顔で答える。
「きっと後からやりたことが出てくるだろう。いいんだよ、なんでも。夢は
持たないといけない。まぁ…座って…。今からなら何でもできる。パイロット
の資格を持つ医師、もいいじゃないか。」
ユキは座りながら山村の話を聞いていた。
「細かい話は校長を通じて進めよう。校長も森さんの進路を考えて今後の指導を
行うようお願いします。」
山村の言葉に校長ははい、と返事をした。
「森さん、食事がまだなら一緒にどうかね?」
山村はすっかりユキが気に入った様子でユキの返事を待たず一緒に校長室を出て行ってしまった。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 1 作家名:kei