yamatoへ… ユキバージョン 1
作戦
「でもこれを隠し通す、って難しいと思うけど?」
浜崎がコーヒーを飲みながらつぶやいた。
「……でしょ?」
ユキは味方ができた安心感からかケーキをパクパク食べていた。
「森さんはどうしようと思ったの?」(先生)
「全部…私が決めちゃって最後の最後で“中学には通わない。軍の寮から
トウキョウの中央病院付属の医学部に通う”ってカミングアウトしようと
思って…。」
浜崎はちょっと親の気持ちになってしまった。
(こんなキレイな子が一人、上京するなんて絶対反対だよな。)
だけど塾で進路相談に来ても“うちは普通でいいんです”しか言わない母に常に“もったいない”という言葉が頭にあった。もちろん進路相談はユキも同席していて母の言っている事に納得しているわけではない。ユキはチャンスがあれば飛び級したい、と常に言っていたからだ。
<女の子が飛び級しても結婚してしまえばそんなの関係ないわ。お相手の方が
転勤のある人なら尚更。子供を産んで旦那様に付いて回るんですもの。
勉強ができるより器量があるほうがいいのよ。飛び級なんてしたらそれこそ
友達はできないし…周りはみなさま年上ですものね。13、4の1級上、って
結構大きいわ。そこで仲間外れにされたら勉強だっておぼつかなくなるし
余程精神的に強くないと飛び級したのにお勉強がおろそかになるわ。>
ユキの母自身が飛び級していた、と聞いたことはない。おそらく知り合いの知り合いの話を鵜呑みにしているのだろうとユキは思っていた。もともとユキは医大を志望していたので塾の講師と以前から飛び級を考えてカリキュラムを組んでいた。だからこの結果は喜ばしい物だったのだ。
「医大の寮を見に行ったりする時どうするんだ?」(先生)
「見に行かない。」
ユキの返事に先生が驚く。
「いいの、寮なら全然安心だし。」
ユキの学校にも親が軍関係の子がいる。
「友達のいとこが軍の寮に入ってる、って言ってた。男ばかりで女性がいない
とても残念だって言ってる、って。だからきっと女子は女子、男子は男子で
別れてるみたいだし…。」
不安がないと言ったらうそになる。
「…そうか。なにか困った事があったら先生に言うんだぞ?先生も軍にいる
友達がいるから聞いてやれるからな。」
ユキはホッとした顔をした。………ふと時計を見ると後20分ほどで授業の始まる時間だ。10分前に先生同士は打ち合わせがある。
「おっと森さん、先生は行くよ。塾に来るルートは大丈夫だろ?(ユキが
頷くと先生は清算ボタンを押してマネーカードを通す)時間はまだある
からゆっくりおいで。じゃあ!」
浜崎は慌ただしくコーヒーを飲み干すと上着を抱えてカフェを出て行った。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 1 作家名:kei