yamatoへ… ユキバージョン 2
<もしもし、森さんの携帯ですか?>
浜崎の携帯を切った後しばらくしてユキの携帯が鳴った。出ると男の声が聞こえた。
「はい…あのぅ…緒方さんですか?」
さっき、岡本から電話があった事を思い出しおそるおそる聞いてみる。携帯に表示されている番号は岡本と違うから大丈夫だろうと思いつつ…
<はい、緒方です。よかった、あいつちゃんと名前伝えといてくれたんですね。
そうです、浜崎の同級生の緒方直樹です。よろしくね。>
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
ユキは初対面でドキドキしていた。
<森さんは大学病院で、って聞いたけど中央の?>(緒方)
「はい。」(ユキ)
<へぇ…優秀なんだね。そっかじゃぁどうしようか…浜崎の話だと今すぐにでも
勉強教えてやってくれって感じだったんだけど?>(緒方)
「はい、そうなんです。一応医大生になるための勉強はしてきましたが
周りはもっと勉強してきてるかもしれないと思うと…勉強していないと
落ち着かないんです。」
ユキが正直な気持ちを伝える。
「それに昨日の昼間、トウキョウシティ、てどんなところだろう、と思って
出かけたら補導されそうになって…むやみに出かけると面倒な事になる、
って…」
緒方は“補導”と聞いて笑ってしまった。
<そうだね、小学生が歩いてる時間じゃないしね。>(緒方)
「そうですけど…笑い事じゃないんですぅ。」
初対面だけど浜崎の知り合い、という事で会話もスムーズに運ぶ。
<じゃぁ本題に入ろうか…私は大学院にいるからそこの教室を借りられるから
こちらにおいで。中央病院の寮でしょ?近いから明日、迎えに行くよ。
一度一緒に来ればその後は一人で来れるでしょ?>
緒方の提案はユキにとってとてもいい事だが
「でもそれって緒方さんに迷惑じゃ?住所教えて頂ければ私自力で行きます。」
そうユキは言い切ったが
<大学が広いからね。いいよ、最寄りのステーションは私の使うラインだし。
そしたらステーションで待ち合わせようか。登りのホームに13時で。
一番後ろのホームにいてくれる?>
「はい。」
<森さんの写真はアイツにもらったから顔判るから大丈夫だよ。変な人に
声かけられないよう気を付けてね。私はちゃんと身分証明書見せるから。>
ユキはホッとした顔をして“ありがとうございます”と言った。
「えっと…端末と携帯と通信機、っと。小遣いは大丈夫かな。」
奨学金が入るのは来月。入学式まで後5日。この5日間を何とか自分の小遣いでクリアーしなくはいけない。
「ご飯はここで食べれば大丈夫…けど、大丈夫かな。」
リニアの料金がいくらか気になる。塾にばかり行っていたので余り小遣いを使わなくても大丈夫な生活だったから大丈夫だろうと思うが…
ユキは急いで昼食を済ませると自室に戻り出かける準備をしていた。山村から肌身離さず持つよう言われた通信機。通信機は本当に役に立った。それと勉強するために端末をリュックに入れ通信機と携帯はリュックのポケットに入れた。マネーカードを手に持ちハンカチをポケットに入れて準備OK。
カードキーで自室の戸締りをすると“よし”と意気込み玄関へ向かった。
「あれ?ユキちゃん、出かけるの?」
玄関で靴を履くユキに向かって寮母が声を掛けた。
「はい、勉強してきます。」
トントンと靴を鳴らして履くと“行ってきます”と言って玄関を出て目の前のステーションへ向かう通路へ向かった。
「勉強ねぇ…よく頑張るわ。」
寮母はユキの後ろ姿を見えなくなるまで見送った。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 2 作家名:kei