yamatoへ… ユキバージョン 2
「私は認めません!」(母)
「ママが認めなくても絶対行くから!荷物だって自分で全部やるからいいの!」
「ユキ、そんな大事な事を自分一人で決めちゃダメじゃないか。」
父が口を開いた。少しユキが申し訳なさそうに父を見た。
「父さんもユキがひとりでトウキョウに行く事は反対だ。九州で同じ事を
することはできなかったのか?」(父)
「出来ないって言われたの。トウキョウじゃないとダメだって…。でもパパ
だっていつまで九州にいるかわからないじゃない。転勤ばかりで私だって
小学校の間に2度も転校した。その度にカリキュラムが変わって大変だった
のよ?いまトウキョウに行けば寮生活だし勉強する事は決まってるから
カリキュラムが変わる心配もない。私の将来の事、もう少し考えて。」
父は転勤のことを言われると何も言えなかった。家族への負担は計り知れない、とずっと思っていた事だった。
「ユキ!誰のおかげでこうして無事に学校も卒業できたと思っているの?
全部パパのおかげなのよ?一生懸命働いて家族のために働いてくれるから
なのよ?それをもう少し考えて、なんて…そんな事言うなんて…信じられ
ないわ。学校で何を習って来たの?そんな恩も感じない言葉を習ったの?」
母がまくしたてる。
「違うわ!感謝してる…だけどママはいつも私の事ずっと否定してきた。
いつも誰かと比べてた。私を見てくれてない。私は自分を認めてくれる
所へ行くの。絶対…夢をあきらめないから!」
ユキはそう言い切ると自分の部屋に入ってしまった。
(絶対…医師になって見せる…)
ユキは涙を封印した。
二日後、ユキの実家にトラックが一台やって来たが乗せた荷物は引っ越し用の箱3つだけだった。
「行ってきます。」
ユキは引っ越しのトラックがきた翌日の早朝、ひっそり自宅玄関を出た。手にはしっかりチケットが握られている。小さなバッグには自分でためた小遣いの入っているマネーチップだけが入っている。
「ユキ、頑張れ。」
自分にそう言い聞かせるとマンションのエレベーターを降りてバスに乗った。早朝の為ユキの他に乗客はいない。貸切のバス状態の外の風景を眺めながらぼんやりしていると先日卒業した小学校が見えてきた。
(ここは2年、通ったわ。)
校門は閉じられていたがその前に手を振る二人の男性の姿…。ユキはバスの窓にへばりついた。
(校長先生と担任だわ…見送りにわざわざ…ありがとうございます。頑張ります。
行ってきます。この学校も街もいつまでもその姿だったらいいのに。)
ユキは心の中でそう祈った。そしてバスは一瞬で学校の前を通過した。遊星爆弾は地球上のどこかに落ちている。いつ日本に落ちてもおかしくないのだ。見慣れた街並み…買い物をしたモール…おいしいケーキ屋さん…。誕生日のケーキはいつも同じ所で同じケーキだった。たった2年しか住んでいない街なのに名残惜しい気持ちになった。今まで父の転勤で離れる時、こんな風に思った事は一度もなかった。
バスはエアートレインのステーションに着き、そこからエアポートへ向かう。エアポートには軍の関係者が迎えに来ると聞いていたので連絡を取ろうと思い携帯を手に取った。ユキの携帯にその関係者の連絡先はしっかり記録されている。
「おはようございます、森ユキです。えっと、今、これからエアートレインに
乗ります。時間は5時32分発です。」
ユキがステーションから電話を掛けた。
<おはようございます。それでは予定通り、ステーションのエアポート専用
改札でお待ちしております。お気をつけてお越しください。>
男性の声だった。ユキは期待と不安で胸がいっぱいだった。
「初めまして。」
エアポート専用の改札に軍服を着た男性がひとり立っていた。背が高くキリっとしていたがユキの顔を見てにっこり笑った。
「…初めまして…。」
改札を出て挨拶されながら右手を出された。ユキも素直に右手を出す。
「私は佐々木と申します。トウキョウシティを経由して大学病院の付属寮に
行くまで私が同行しますのでよろしく。」
丁寧なあいさつにユキは緊張しているせいか“よろしくお願いします”としか言えなかった。佐々木はユキが一人で来た事に驚いたが山村から話は聞いていたのでそこは触れずユキを案内するようにエアポートへ向かった。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 2 作家名:kei