yamatoへ… ユキバージョン 2
旅立ち
「行っちゃったわ…。」
カチャ…と玄関の開く音と小さな声の“行ってきます”が母の心を締め付ける。ベッドの中で涙が溢れた。
「ママ…」
父はそっと母の手を握る。
「そっとしておこう。もしユキが戻って来たら笑顔で迎えてやろう。」
父の言葉に母は頷くだけだった。
「お腹空きませんか?」
佐々木はソファー座って飛行機を待つユキに声を掛けた。飛行機に乗るまで後30分ほどある。
「大丈夫です。」
ここは軍専用のVIPルーム。何もかもが立派でユキはお行儀の悪い子、と思われないように静かに座っていた。でもこの二日間、顔を合わせれば両親と言い合いをしていたのでろくに食事も取っていない。用意された食事も“いらない”と言って突っぱねていた。お腹が空いて我慢できなくなると小遣いでパンを買って食べていた。
“大丈夫です”と言ったものの実はお腹が空いて歩くのもしんどかった。途中でなにか買おうと思ったが時間に遅れたら、と思うと心配でコンビニに寄る事も出来なかった。佐々木は端末を取り出すと何やら入力している。ユキはこんな早朝から仕事で忙しいのだろうか?とわざわざ迎えに来てくれたことに申し訳なく思う。
「ちょっと失礼しますがこの部屋から絶対に出ないでくださいね。」
「はい。」(ユキ)
佐々木は念を押してその部屋から出た。部屋の外には警備が一人立っていた。
「少し席を外す。決して彼女を外に出さないように、私以外誰もこの部屋に
入れないように。」
そう言って出かけて行った。
ユキは佐々木がいなくなるとそっと立ち上がりまず窓の外を見た。眼下に飛行機が並びロボットが動いている。荷物を運んでいるのだろうか?その動きは忙しかった。
「入ります。」
5分ほどして佐々木が戻って来た、と同時にコーヒーのいい香りがする。ユキは慌ててソファーに座ろうとしたが佐々木は笑いながら“自由にしていいですよ”と言った。
「朝食、食べてないですよね。一緒に食べませんか?」
ユキが座っていた所に戻ると手に持っていたトレイをテーブルに置いて佐々木も座った。
「私も朝食まだなんです。もしよければご一緒に、と思って。何がお好みか
わからなかったものですから適当に作ってもらいました。女性はパスタとか
お好きでしょうけど朝からは結構重いですからね…サンドイッチは食べられ
ますか?紅茶なら大丈夫でしょう?」
佐々木の持ってきたトレイにはサンドイッチとホットケーキが乗っていた。自分用にコーヒー、ユキにはミルクたっぷりの紅茶を買ってきてくれた。
「さぁ時間があまりないのでいただきましょう。」
ユキは“すみません”と言いながら“いただきます”と言って遠慮なくいただくことにした。
朝食を食べ終えてしばらくすると係員が二人を呼びに来た。ユキはチケットをその係員に見せた。フライトまで後10分。VIP扱いなので搭乗手続きなどはなく係員もその場でチケットをハンディで読み取ると笑顔でユキと佐々木の前を歩き出した。
「こちらよりお入りください。後は中の係員に案内させます。」
飛行機の入り口で別の係員に引き継がれユキと佐々木はその係員にお礼を言うと飛行機の前の方へ案内された。飛行機に入った時は普通の座席が並んでいたけどユキが案内された所は一つ一つのシートが大きくシートとシートの間も広くゆったりしていた。
「こちらが森様の座席になります。今日は少し風がございます。シートベルトを
しっかりお付け下さいませ。」
係員が丁寧に説明する。ユキはシートに座るとシートベルトを締めた。
「お荷物はこのバッグのみ、ですか?」
係員はユキが握っている小さなバッグを見て言った。
「はい。」
ユキが短く返事をする。
「それでは座席の横にあるネットにお入れください。携帯の電源はお切り
ください。間もなくフライトとなります。」
ユキが佐々木を振り返ると慣れている様子で手荷物を座席の上のボックスに自分で上げているのが見えた。そしてユキの視線を感じたのかにっこり笑った。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 2 作家名:kei