yamatoへ… ユキバージョン 2
「彼女、本当に12歳ですか?」
ユキと別れ岡本は山村に聞いた。
「そうだ、大人っぽいだろう?」
山村は笑顔で答える。
「将来、すごい美人になると思いますよ。」
佐々木も便乗する。
「同い年かと思いました。」
岡本は当たり障りのない返事をした。
「ここが岡本くんのお部屋。荷物は運ばれてるから後は自分で整理してね。
で、ここはロビーを抜けたら男子寮は女性入室禁止、女性寮は男性入室禁止
になってるから気を付けてね。」
寮母はそう言いながら岡本にカードキーを渡す。そして岡本が部屋の扉を開けると振り返り
「今日は一日ありがとうございました。」
と礼をした。山村と佐々木はそれを見て笑顔で頷くと
「私たちはこれで失礼するよ。ゆっくり休みたまえ。」
と言って廊下を戻って行った。
(やべぇ、すげぇかわいい…)
岡本は一瞬でユキの虜になってしまった。まだ背は150くらいしかなさそうだがもう少し背が伸びればもっと目立つだろう。小さいけど面長の顔、すっとした鼻、美しい瞳…薄い唇の口角は少し上がっていた…。
(よし、早速明日、デートに誘おう。)
岡本は携帯を取り出しすぐにユキに連絡を入れた。
<はい、森です。>
ユキの明るい声が聞こえる。
「あ、先ほどはどうも、岡本です。」
<はい、どうも。>
ユキは突然かかってきた携帯にどう対応したらいいか考えた。さっき岡本と別れた後ジュースを買い今勉強を始めた所だ。
「今、何していますか?」(岡本)
ユキは岡本が自分に興味のある事なんて全く感じてない。
<え?今ですか?勉強中です。>
ユキの答えに一瞬戸惑う岡本だが顔に出さないよう平静を保った。
「え?もう勉強ですか?明日にしましょうよ。…って明日、どこか一緒に
行きませんか?」
岡本はどうせなら、と一気に押した。相手は今年中学生。中学生から見た高校生はとても大人見えるはずだ。岡本自身とてもモテた。クラスの廊下には岡本を見るためにのぞく女子もいたぐらいだ。告白は日常茶飯事で高い身長だけど年上のお姉様にはかわいく見えるのかいろいろ教えてもらっていた…。なので中学生なんてお手のモノだと思ったのだ。
<ごめんなさい、忙しいから。>
ユキは携帯を切った。今勉強し始めた所で一番やる気になっている時なのにその出入り鼻をくじかれた感じで少しいらいらした。
(人の事全く考えない人ね。)
ユキは携帯の電源を切るとジュースを一口飲んで気分を変え勉強を始めた。
岡本は“ツーツーツー”という音しか聞こえない携帯を呆然と見つめた。自分から声を掛けて断られたのも初めてだがその断られ方がすごすぎた。
まるで有無を言わせず目の前に壁が落ちてきたような…そんな感じだった。
(うそだろう?この俺が断られた?それも勉強に負けた…)
その日の夜、ユキは塾の浜崎に電話をした。
<どうした?森さん、もうホームシック?>
「違います。学校始まるまで勉強を教えてくれる人がいなくて…どうしようか
考えてるんですがトウキョウなんて何もわからないし…どうしたらいいのか
わからないくて…。」
ユキが端末を見せる。
<そうか…わかった。30分くらいしたら折り返すから携帯片手に待ってて。>
浜崎はそう言って携帯を切った。そして自分のアドレスを開く。
(お、こいつ…今もトウキョウにいるかな?)
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 2 作家名:kei