yamatoへ… ユキバージョン 3
ユキを含めたグループは中央病院のあるステーションで下りた。すぐ隣に軍の司令部がある。
「緊張してきた。」
17歳の男性がつぶやく。
「ふふふ、そうよね。私もドキドキしてきたわ。」
看護士志望の女性がそれに反応する。
(私だけじゃないんだ。)
ユキは思わずホッとした。
「行こうか。」
中央病院を抜けて医大の建物に入ると学生がどこからともなくやって来た。
「新入生?兄弟?」
傍から見たらヘンな感じだろう。入学式に年相応の人もいればどうみても兄弟が参加しています、的なユキもいたり…
「いえ…あの、講堂に行きたいのですが…。」
そう告げると学生たちは“飛び級か?と言う顔をしながら案内してくれた。
(始まるんだ…)
ユキは入学式の事なんてなにも考えていなかった。ただこれから始まる未来の事に思いを馳せていた。
「ふぁぁぁ…」
そんなユキの横で岡本があくびをした。
「岡本さん、恥ずかしいです。」
ユキがそう言うと
「だって退屈だろう?早く講義を受けたいよ。」
眠そうな顔をしながらつぶやく。
「そうだけど…。」
ユキもそう思っていたのでついそう返事をした。
「でも、これをしないと勉強始まらないし。」
岡本はユキの事をやはり小学生だな、と思う。なんせ何に対しても真面目なのだ。
「ユキちゃんはまじめだねぇ。」
少しからかうような言い方にユキはあきれた。
「だってこれから、なんですから。」
両親の事を思うと絶対にくじけていられない…絶対に医師になり見返してやりたい…
そればかりがユキの頭の中から離れなかった。
「おはよう。」
翌日、入学式の時一緒だった女性と一緒に朝ご飯を食べる約束をしていた。ユキは髪を後ろで結わいてトレイを持って5人のいるテーブルについた。
「おはよう。今日からね。」
「そうですね、緊張して早くに目が覚めちゃいました。」
ユキはそう言ってにっこり笑う。
「ねぇユキちゃんって本当なら中学生なんでしょ?」
テーブルにユキ以外に5人。年齢は15歳が2人17歳が3人。ユキはパンを小さくちぎりながら“はい”と答えた。
「すごいわねぇ、12歳で大学生…それも医大よ?」
「毎日お勉強、頑張ったのよね。すごいわぁ。」
ユキは子ども扱いされるのが嫌だった。確かに年下だが同期になるのだから。
「いえ…」
でも一応謙遜してみる。昨日の自己紹介で15歳の二人は杉山かおり、野山春香。17歳の方は高田由美、石田明美、安西理恵。ユキは顔を見る度に心の中で名前を復唱した。
「私も医学部行きたかったんだけど医者になるのって時間がかかりすぎる
のよね。だから看護士にしちゃったんだけど…どのみち全く頭が足りなくて。
ユキちゃんぐらいからしっかり目標を持っていたら、って今思ってる。」
高田由美がユキの顔を見て言った。
「頑張ろうね。お互いに。」
ユキは由美は自分を年下、と見ていない事に気付いた。
「行ってきます。」
飛び級の女性チームが女子寮を出た。ステーションと玄関は直結。その為、ステーションから寮に戻る時はたった3分の距離なのに3度も身分証明書のカードを通すところがあった。反対に寮を出る時はそのまますんなりエアートレインに乗れる。
「ねぇユキちゃんは岡本さんの事、どう思う?」
突然杉山かおりに話を振られた。
「岡本さん?」
ユキが聞き返すとかおりの顔が真っ赤になった。
「やだ、ユキちゃん、大きな声で言わないで。誰が聞いてるかわからない
でしょう?」
ユキが辺りを見渡すがこの6人以外近くにいない。
「かおりねぇ、岡本さんの事ちょっと気に入ってるんだって。」
同級生の春香がかおりの肩に手を置いてユキに説明する。
「そうなんですか。」
ユキは淡々と返事をする。
「あれ?ユキちゃんって岡本さんの特別な人じゃないの?」
春香が驚いたようにユキに聞く。
「えぇ、ただ同じ日に入寮しただけで…岡本さんと私が年齢が近い、って事
で紹介されたの。それだけよ?」
ユキが最初に会った時の事を思い出して話す。
「ユキちゃんがそうでも…」
かおりが小さな声で言ったのはもちろんユキに聞こえていない。誰の眼にも岡本がユキの事を特別に思っているのが分かる。入学式もユキから離れなかった。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 3 作家名:kei