yamatoへ… ユキバージョン 4
それからユキは緒方の所で勉強するのは全て復習にする事にした。先に進む事も大事だが先に進み過ぎて振返りがおろそかになる事がないように、と思ったのだ。
月曜日から金曜日までは医大で、土曜日は朝から晩まで緒方の所で勉強するのが日課だった。同じ教室にいてどんどん差が付き始めユキと岡本、森屋と徳山の間にはっきりした差が生まれ始めていた。
それでも休憩時間などは一緒だったのでランチは一緒に摂っていた。
森屋と徳山はいつもため息から始まる。
「「はぁ…」」
トレイの上の食事も少ない。
「森屋さんも徳山さんも食欲ないんですか?」(ユキ)
ユキのトレイには二人より多い量が乗っている。もちろん岡本も。
「うん、テストの結果が悪くてね…」
森屋は肩を落とす。
「このままじゃ2年次に進めないよ。」
落ちている肩が更に落ちる。
「難しすぎて…たった一年早く医大に入っただけなのに…どうしてこんなに
大変なんだろう…このままじゃ笑顔で送り出してくれた親に顔向けできな
いよ。」
徳山は遠くを見つめる。しかしその遠くを見つめる窓の先には地下都市だから茶色の壁があるだけだ。
「そしたらわからない所から始めないとだめじゃないですか?」
ユキが“いただきます”と言って食事を初めて一番にそう言った。
「今がわからないならちゃんと戻ってわかるところから始めないとダメでしょ?
そのまま行ったって身に付かないですよ。」
ユキの言っている事は当然の事だが今更わからない、と言えない事もある。
「私でよければ教えますよ?人に教えると自分も復習になっていいし。」
ユキが笑顔で言う。しかし森屋と徳山は複雑そうな顔をしている。ユキは年下だ。飛び級した自分たちが年下から教わるなんて…そんな顔をしている。もちろんユキにもその表情が分かった。
「見栄を張ってる場合じゃないと思いますよ?1年次をもう一度するか、
プライドを捨てて2年次に進むか、ですよ。」
ユキはそう言って二人を見た。岡本は黙って3人を見る。ユキは二人から視線を外しもくもくと食べる。
「私から、がイヤなら岡本さんから教わったらいいですよ。岡本さんと私、
同じ所勉強していますから。」
ユキはしっかり噛み砕いてゆっくり食事をする。
「今、どのあたりを勉強してるの?」(森屋)
「もう2年次に入っているわ。」
ユキがさらっと言う。まだ入学して8か月だ。
「もう?そんなに進んでいるの?」
森屋だけでなく徳山も驚いている。
「だって、私全く遊んでいないもの。最近よ?時々お茶とかするようになった
のも。お金に余裕がでてきた、って言うのもあるけどペースを上げる時期じゃ
ない、って思って。最初の頃は全てが基礎だったけど今は応用。私も今、時々
基礎部分勉強し直したりするからちょうどいいと思ったんだけどね。」
ユキは箸を休める事なく話続ける。
「岡本さんは余裕みたいだけど…私も結構キツイ。」
ユキの言葉に森屋と徳山は驚いた。
「え?ユキちゃんもキツイの?」(徳山)
「当たり前じゃない。予習してきたことなんてほんの3か月ぐらいで終って
るし…わかってる事が前提でどんどん進むし…だけどスピードを落とす事は
したくなくてすごいキツい。」
ユキの言葉を3人は黙って聞いている。
「ユキちゃん、放課後いつもの図書室にいる?」(徳山)
ユキは午後の授業が終わると寮に戻らず図書室に向かう事を知っていた。
「えぇいるわ。」
ユキが笑顔で答える。午後の授業は1時から2時半までは通常授業でその後5時まで他の医学部の学生と一緒に体力作りの為体育館を使って運動している。ユキはそれが終わると7時半まで図書室にいた。
「行くから…待っててくれる?」(徳山)
ユキは黙って頷いた。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 4 作家名:kei