yamatoへ… ユキバージョン 4
「ふふん」
徳山が自室で服を選んでいた。今日はユキとデート…のつもり。単に食事に誘っただけだが18歳、“春”の予感。(徳山に限りだが)そこへ森屋が徳山の部屋に入って来た。
「なんだよ、ノックぐらいしろよ。」
いつもと同じように入って来たのに徳山は少し怒ったような顔をした。
「別にいつも通りじゃないか……あれ?お前どこか行くの?」
ベッドの上に並べられた服を森屋が見て聞いた。
「ふだん着るのと全然違うモノばっかりじゃん?…って事は相手は女か?」
森屋はニヤっとする。徳山は特に答えない。
「へぇ…だけど医学部だろ?頭はいいけど…なぁ、ちょっと、って感じじゃん?」
森屋の言葉を徳山は黙って聞いている。
「せめて看護士と一緒に勉強させてくれたらなぁ…俺、もっと頑張るのに。」
森屋が本当に残念そうに言う。随分男性の看護士も増えたが女性がやはり多い職場ではある。
「今日はどこに行くんだ?」
森屋が詰め寄るが徳山は黙っている。
「全く…狙った獲物は逃さない、って顔してるぜ?」(森屋)
「いや、そんなじゃないさ。でも…いますぐどうこう、ってんじゃなくて今は
とりあえず食事でも、ってところさ。」
徳山は服を決めたのか服をクローゼットにしまい始めた。
「そうかい、そうかい。いつものお前らしくないな。」
森屋と徳山は金曜日のテストが終わった後はいつも飲みに行っていた。実はどちらも親のセカンドカードを持っている。つまりアルコールを注文してもそれが払えるカードだから問題なかったのだ。
「さてと…全く食事の好みがわからないからな…慎重に行かないと。」
徳山はいつもより落ち着いた服を選んだ。
翌日、日曜日。ユキは予定通り緒方の所で教えてもらった事の復習と先週の授業の振返りをした。さすがに一週間分全てを振り返るので時間はいくらあっても足りない。
朝起きると食堂でランチをテイクアウトし、朝食を頂く。
そして自室にこもり夕方までトイレ以外は出ない、と言う徹底ぶりだった。さすがにこの頃になるとかおりも春香もユキの部屋に来ることはなかった。用事は全てメールで緊急でない限り携帯に連絡が来る事もない。
と、そこへ徳山からメールが届いた。
“玄関は目立つのでステーションで、いかがでしょうか。”
ユキはすっかり忘れていた事に気付き慌てて時間を見た。まだ午後2時。勉強は後2時間もすれば大丈夫だろう。
“すみません、すっかり忘れてました。”
ユキが正直に返す。徳山はその返事を見て一瞬慌てたが
“ユキちゃんらしくない。とりあえず5時にステーションで待っています。”
短くそう記してあり断ろうにも今日の今日じゃ断れない…ユキは肩を落として
“よろしくお願いします”
と、送信した。
あっという間に5時になり、ユキは慌てて玄関を出た。その数分前に徳山が出て行ったのを森屋が見ていた。
(あれ?徳山はユキちゃんを誘ったのか?)
森屋はユキを追いかけようと思ったがほんの数分でステーション、来たエアートレインに乗れば絶対追いつかないのであきらめ自室に向かった。
「うわぁ~ギリ!」
ユキはギリギリまで勉強していておしゃれも何もしていなかった。だけど余りにも幼い恰好では出かけられない。徳山さんに失礼だと思った。足の長いユキにピッタリの細いジーンズ、襟ぐりの狭いさわやかなスカイブルーのシャツはユキの小さな顔をさらに小さく見せている。
「お待たせしました…。」
少し息を整えて徳山の待つ所へ向かう。徳山はにっこり笑うと
「大丈夫、俺も今来たところだから。」
と言ってステーションの中へ入った。
「ユキちゃん、ちゃんと説明しなくてごめん、今日の所ジーンズボツ、なんだ。」
ユキが驚いた顔をした。もちろんこれは徳山の計算済み。
「少し時間があるからお店に寄っていこう。」
いつも降りる医大のステーションを過ぎて次の大きなステーションで降りた。
「ここ、初めてだわ。」(ユキ)
「ここはね、聞いた事あると思う。銀座。寮の近くのモールの雰囲気も全く違うだろ?」
確かに落ち着いた感じのモールが並ぶ。
「えぇ…でも高そう…。」
徳山とユキが並んで歩いていると店の中から“徳山様!”と呼ぶ声が聞こえた。高そうなブティックのオーナーだろうか、ユキの父親と同じぐらいの男性が徳山を呼び止めた。
「お久しぶりですね。先日お母様がいらしてくれましたよ。その時お母様が
ご長男様がトウキョウシティにいる、とおっしゃってらして…ぜひ、顔を
出してほしいとお願いしたんですよ。」
店の前で二人が話し始めた。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 4 作家名:kei