yamatoへ… ユキバージョン 5
ユキはこの3か月の間でいろいろ調べていた。
看護士と言う医師と患者とどちらともかかわりを持つ大事なポジション。“命を救う”と言う意味では同じではないか、と思うようになった。
「森さんが思うようにするといいよ。森さんの人生なんだから。」
ユキは緒方の言葉にハッとした。自分は今までそうしてきたのではないだろうか?自分の足で自分の人生を歩くためにここに来たんだ、と。
「緒方先生、ありがとうございます。何を悩んでいたのか…。」
ユキはいつもの笑顔になった。
「そう、その笑顔だよ。その笑顔があればどんな困難も切り開ける。」
緒方も笑顔になる。
「後で佐々木さんに相談してみます。」
ユキはなかなか進まなかったランチを食べ始めた。
緒方と別れたユキは早速佐々木に連絡を取った。
<おや、森さん。ここ最近連絡がないから元気だと思ってたのですがどうしました?>
佐々木が笑顔でユキの連絡に応じた。
「あの、実はご相談したい事がありまして…お時間いただけませんか?」(ユキ)
<えぇ、いいですよ。今日の夕方、6時頃、防衛軍司令本部の3階にカフェが
あるのでそちらでいかがでしょうか?>(佐々木)
防衛軍司令部と中央病院は隣同士だ。
「その頃でしたら私も大丈夫です。」(ユキ)
佐々木は中央病院付属の医大出身。どの時間になればユキの手が空くのかよく解っている。
<ではお待ちしております。>
佐々木は携帯を切った。そしてすぐに山村に連絡を入れた。
「佐々木です、入ります。」
佐々木は山村の部屋の通された。佐々木は山村に敬礼をして山村もそれを返す。以前、山村は軍の議長を務めていた。が、先日それは勇退し現在は軍の幹事議員となっていた。(軍の重要会議のメンバー)
「うむ、何かあったか?」(山村)
「先ほど医大に通っている森さんから連絡があり相談がある、との事で今日の6時に
3階のカフェで待ち合わせしました。もしお時間があればご一緒に、と思いまして。」
ユキが連絡してくるという事は余程の事だと佐々木は思った。今まで連絡してきたのは過去2回のみ。一度は山村に直接補導されかけた時、二度目は佐々木に“ドイツ語を習いたい”と願い出た時だった。成績も優秀で飛び級の同期の中だけでなくその年に入学した医大生のなかでも成績はトップだった。
「6時…か、わかった。私も一緒に行こう。5時まで重要会議が入っている。
遅れる場合があるかもしれんが…その時は話を聞いてやってほしい。」
山村がそう言うと佐々木は再び敬礼し山村の部屋を出て行った。
「森ユキか。上京した時以来だな。」
山村もユキの事は良く覚えていた。訓練生として佐世保に行かせようとしたが本人が医師になりたいと訴え小学校を卒業して間もなく親元を離れひとり上京してきた子…親に反対され自分が頑張れば認められる、と必死に頑張ろうとしていた子。功を奏し常に成績はトップで山村は心底医大に入れてよかったと思ったのだった。
「きっとキレイになっただろうな。」
小学校の校長室で会った時も凛とした芯のある美しさを感じた。あれは何年前の事だろう…
山村は眼を閉じた。
「ご活躍は聞いていますよ。」
佐々木はユキの顔を見て開口一番こう言った。
「え?」
ユキが聞くと
「医大の同期の中で成績TOPだそうですね。すばらしいです。」
佐々木がそう言うとユキは複雑そうな顔をした
「でも…机の上の勉強が出来てもしょうがないですから。本番はこれからですし…。」
ユキの言葉に佐々木はかわらないな、と思う。九州に迎えに行った時、朝早く一人で起きて出て来ただろうからお腹が減っていると思って声を掛けたがその言葉に甘える事無く静かにフライトの時間を待っていた。ただ、自分が席を外した時、エアポートの様子が気になるのか席を立っていた、と言う事が“やっぱり子供なんだ”と妙に安心したのを覚えている。そして買って来た朝食をおいしそうに食べるユキに安心したものだ。
「でも机の上の勉強ができないと…その先はありませんからね。」
佐々木が笑顔でユキを持ち上げる。でもユキはこれから言う事がその信頼を裏切るのではないかと落ち着かなかった。
……、とそこへ山村がやってきた。ユキは驚いて立ち上がった。
「森さん、久しぶりだね。上京以来だ。元気そうだね。」
山村はそう笑顔で言うと二人のいるテーブルに座りコーヒーを注文した。
「…で?」
山村が問うように聞くと佐々木は“これからです”と答えた。山村はユキを見るとにっこり笑った。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 5 作家名:kei