yamatoへ… ユキバージョン 6
「ここが私のラボだ。」
ユキはこの若さで個室の研究室をもらっているのに不思議に思う。
「私は少し変わり者、と言われていてね…。」
真田がコーヒーを片手にユキにもコーヒーを入れる。カップの隣に砂糖とミルクを忘れない。
「ありがとうございます。」
少し苦いコーヒーをユキは少ししかめっ面で飲んだ。
「医学部ではかなり優秀だったみたいだね。」
真田がエスプレッソをすすりながら話し出した。
「いえ…。」
ユキがミルクの入ったコーヒーを持ったまま下を向いた。
「不断の努力が実を結んだんだ。医師から看護士に転向して最初の目的は達成
されないかもしれないけどその分、別の所で頑張ればいい。その為の協力は
惜しまない。だが私も“使えない”と思ったら切り捨てる。その覚悟でいて
ほしい。」
真田が少し強い口調になった。
「わかっています。ビシビシ指導、お願いします。」
真田は不思議な少女だ、と思った。真田自身が言っている事はいつも部下に言っている事。“切り捨てる”と言うと誰もが恐怖の顔を見せるのにユキは笑顔だった。
「よし、では今後のスケジュールを立てよう。まだまっさらだからな。」
真田は自分の端末を立ち上げた。それを見てユキも端末を出した。
「そうだな…看護士としての資格はすぐに取れるだろう。その分の勉強は自分で
できるな?(ユキが頷く)ではそのパイロットとして、という事だがまず
訓練学校へ通う。私がちょうど2か月の間、ヨコスカへ行く。時々帰って来るが
そこは空母があるから艦載機もあるし救命艇もある。そこで2か月間びっちり
訓練しよう。Gがきついから今日から軍のトレーナーを付けて…筋トレを
するように。まぁ(ユキを見て)余計なモノが付いていないから負担になる
ようなGは無さそうだが特に艦載機はGがキツい。ちょっとした事でむち打ち
のような症状がでるからしっかりトレーニングするように。」
真田はすでにインストラクターを用意していた。
「キミにはインストラクターを付ける。私の知人だから安心しなさい。」
ユキは不思議だった。こんなに強面で口調も強いのに全く怖さを感じない。それどころか声を聞いていると妙に落ち着くのだ。
「はい、よろしくお願いします。」(ユキ)
「ふだんは何か運動しているか?」(真田)
「いえ…特に…医大のカリキュラムにある運動ぐらいしか…。」
ユキはそう言うが毎日の“食後の運動タイム”はかなりヘビーで結構ダウンするものもいた、が、ユキは見かけによらず体力があったのか最初から最後まで動きっぱなしでも全然大丈夫だった。
「多分、見かけより体力あるんだと思います。」
そう言って笑った。
ふたりの会話はどんどん進み今後の展開の話まで進んだ。
<ユキちゃん、ちょっといい?>
その日の夜、ユキの携帯に岡本から連絡が入った。
「なぁに?」(ユキ)
<時間があるならエントランスのロビーに、来てくれないかな。>
時計を見るとまだ8時。看護士の資格の勉強中だったがユキは頷いて“すぐに行くわ”と言って携帯を切った。
「お待たせ。」
ユキがロビーに行くとソファーで難しい顔をしたまま腕を組んで座っている岡本がいた。
「どうしたの?そんな難しい顔をして。」
ユキが聞いた。
「なぜ、今日の講義受けなかったんだ?前から楽しみにしていた抗議だったはず。」
ユキと岡本の専攻は同じ。受ける授業も一緒だった。
「それと…何日か前に食堂で見た事のない男の人と一緒だったけどあれは誰だ?」
ユキは一瞬岡本のとげのある言葉にピクンと反応した。
「誰だ?」
岡本はもう一度ユキに聞いた。
「誰だっていいじゃない。」
ユキは干渉されるのが大嫌いだ。
「なに?」
岡本の声が感情的になる。
「だって岡本さんには関係ない人だわ。私の知り合いよ?なぜ岡本さんに
言わなきゃいけないの?」
ユキが面倒臭そうに話す。
「ユキちゃん!」
岡本が大きな声を出した。
「私ね、余計な事でいろいろ言われるのいやなの。今勉強中だったのに…
部屋に戻るわ。」
ユキは岡本をにらむように見ると女子寮へ戻って行った。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 6 作家名:kei