yamatoへ… ユキバージョン 7
「失礼します。具合はどうですか?」
ユキが渡辺の部屋をノックをして入った。薬で眠らされているので意識はない。
「点滴、替えますね。」
ユキは点滴の名前を確認すると終わりかけの点滴を外し新しい栄養剤の入った点滴を下げ針を差し替えた。
「ふぅ…。」
ユキがベッドの横にある椅子に座ってため息をついた…と同時に渡辺の顔が一瞬歪んだ。
「渡辺さん?」
ユキが声を掛けると渡辺の眼がうっすら開いた。
「渡辺さん、わかりますか?ここ、病院です。」
渡辺の眼の焦点はなかなか合わないようでぎゅっとつむったりうっすら開いたりを繰り返す。
「今、先生お呼びしますね。」
ユキがにっこり笑いながらナースコールを押して“渡辺さんが目覚めました”と伝えた。
「…あ?」
渡辺がユキの姿を見て気付いたような顔をした。
「わかりますか?森ユキです。月基地でお世話になった…。」
ユキはそう言いながら渡辺の左手をとり脈を取り始めた。時計を見て時間を計り心の中で脈を数えた。そこへ担当医が入って来た。
「渡辺さん、ご気分は?」
渡辺は自分に何が起きてるかわからないような感じだった。
「私、渡辺さんの担当の井上です。よろしく。(握手をする)昨日の事覚えて
いますか?(渡辺が首を振る)暴動が起きたの、覚えていますか?」
井上の言葉に渡辺が一瞬眉を寄せる。
「その時けがをされてここへ運ばれました。大腿骨、肋骨に骨折が見られます。
無数の打撲があり内出血が体中にあります。どうも大腿骨を骨折した後大勢に
囲まれて暴行を受けたのでしょう。折れた肋骨が肺を傷つけていました。
かなり危険な状態で運ばれてきまして…。しばらくは動けないでしょうから
何かありましたらナースコール押してくださいね。」
井上は枕元にあるナースコールのボタンを見せた。
「口の中を切っていますのでしばらくは食事がとりにくいと思います。首から
上に大きなケガはありませんでした。脳挫傷の心配もあったので検査しました
が異常なし、なので安心してください。」
渡辺は井上の言葉にホッとした顔をした。
「しばらくは寝返り打つのも辛いと思いますが肋骨の骨折さえ落ち着けば大丈夫
でしょう。」
井上が渡辺の右胸を“ここです”と教えながら話す。
「点滴に痛み止めが入っています。なので点滴はおとなしく受けてくださいね。」
井上はそう言うと立ち上がりユキに“じゃぁ後はよろしく”と言って渡辺の部屋を出て行った。
「…です。」
ユキが渡辺の顔をみてそう言うと渡辺はふぅ、と大きくため息をついた…と同時にいたそうな顔をした。
「大丈夫ですか?」
ユキが慌てて声を掛ける。渡辺は点滴を見つめながら思い出したのかつぶやくように話し出した。
「そうだ…ふとももを鉄パイプで殴られた。そのままひざまずいたらすごい人数が
一気に押し寄せて頭を守るために丸くなったまま…その後の記憶がない。」
ユキは黙って聞いている。
「キミは…看護士だったのか?」
突然渡辺は話題を替えた。
「あの時…あんな言い方をしてすまなかった。」
ユキは射撃訓練をしてもらった時の事を思い出した。
「いえ…あの時は訓練生として行ったので…。」
ユキが歯切れ悪く言った。
「後から初めて艦載機を操縦する訓練をした後、って聞いてな…初めての後で
あの訓練はないだろう、と周りから責められた。知らないとはいえ、ちゃんと
最初に聞くべきだったと後悔したがその後会えず終いで…。」
実はあの後ユキももう一度お話ししたい、と思いつつ訓練が思いの他分単位で詰まっていた事もあり結局会えず仕舞いだった事を後悔していた。
「毎日射撃訓練をしていましたが時間がいつも違くて…いつも“いるかなぁ?”
と思いながら扉を開けるんですが…。」
ユキが本当に残念そうにつぶやく。
「でも随分腕、上がったんじゃないですか?」
渡辺が気分よさそうに聞く。
「うふふ、あの後最上級レベルまで行きました。もちろん100%で。師匠が真田
さんだから失敗は許されない、みたいな感じ、ですよ。」
ユキが笑顔で話す。
「へぇ…そりゃすごい!」
渡辺は心底驚きながらも嬉しそうにユキを見た。
「今も訓練学校の射撃訓練所を借りながら時間があればかならず射撃訓練所に
顔を出します。真田さんが言ってました。最初に変な癖を付けられると困るが
渡辺さんは基本中の基本を教えてくれた、って。」
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 7 作家名:kei