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yamatoへ… ユキバージョン 7

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 「…?渡辺さん?」

ユキが声を掛ける。その瞬間患者を囲っていた誰もがユキを見た。

  「知り合い?」
  「えぇ…。」

ユキがそっと額に着いた血をぬぐうがすぐににじんでくる。

  「じゃぁ森さんはこの患者について。すぐに次の患者が入って来るからどんどん
   中へ。重傷患者が運ばれてくるから手早く処置して!」

婦長が看護士たちに声を掛けると誰もが“ハイ”と返事をしてキャスターのロックを外し緊急の処置室へ移動した。










怒涛の5時間が過ぎ全員の患者の処置が終わった。すでに時刻はユキ達の上がる定時を過ぎていたがカルテの整理、患者の様子を見たりしていたので誰一人帰ろうとする者はいなかった。

  「入ります。」

ユキは渡辺の個室に入った。すでに心臓も呼吸も規則正しく動いていて容体が落ち着いたのでICUから個室に移されていた。

  「渡辺さん?ご気分はいかがですか?」

少し濡らしたタオルで顔を拭くと一瞬眉間にしわが寄ったがその後気持ちよさそうな顔になった。

  「冷たくなっちゃったかしら?お湯で濡らしてきたんだけど。気持ちいいで
   しょう?」

額から頭の部分は包帯が巻かれ痛々しい。骨折も数カ所あり当分動けない状態だ。今は薬で眠らされていて痛みも抑えられている。この薬が切れたらとんでもない痛みが渡辺を襲うだろう。

ユキはベッドの横に座り何気なく点滴を見た。

  「点滴の中に痛み止めが入ってるから大丈夫ね。渡辺さん、また来るわ。」

ユキはそう声を掛けて部屋を出ようとした時ちょうど岡本が入って来た。

  「あぁユキちゃん…この患者?」(岡本)
  「えぇ、私が担当になったの。一番重傷で…最初に運ばれてきた人。」

ユキの長いまつげが揺れた。岡本はユキがこんな憂いを帯びた眼で人を見たことがなかったと気付いた。

  「ひょっとして…知り合い?」

岡本の問いにユキは静かに首を縦に振った。

  「訓練で…とてもお世話になった人。何もできない私に基礎を教えてくれたの。
   私、なにもお礼してなくて…まさかこんな所で再会するなんて思わなかった。」

ユキの瞳から今にも涙が落ちそうになる。が、ここは職場。ユキも気を引き締めた。

  「そう…なんだ。」

岡本はユキがしばらく月へ行っていたのを知っている。

  「患者は渡辺さんだけじゃないから…次に行かなきゃ。岡本さんはどうして?」

ユキは岡本がここにいるのが不思議に思い聞いた。

  「いや、今日は午後からだったんだけど大変だった、って聞いたから様子を見に
   来たんだ。ICUは今見て来たけど特に何も変わってなくて…。」(岡本)
  「そう、ここは大丈夫。次行くけど一緒に回る?」

ユキはそう言うと渡辺の脈を取りながら顔色を確認すると静かに渡辺の部屋を出た。











  

  「結局泊まりになっちゃった。」

ユキは寮に戻って来た。渡辺の様子が気になったが引き継ぎのシフトの看護士に引き継ぎ戻って来たのだ。少し仮眠をとったがかなりだるい。

  「シャワーでも浴びて寝ようかな。」

ユキはそう言うとシャワーのセットを手に取りのろのろとシャワー室へ向かった。




シャワーを浴びながらユキは今日は戦場だった、としみじみ思った。さして重傷じゃなさそうに見える患者が実はすごい重傷で危険な状態で運ばれてくる患者も少なくなかった。救える命もあっただろう…事故現場はいったいどうなっているのか…。今朝のニュースはこの事故の事ばかりを繰り返し放送している。

  “軍の備蓄倉庫で暴動が起こりました。”

事の発端は“物取り”。公務員が生き残るために少しずつ食糧を備蓄しているとガセが流れたのだ。一般市民にとってはかなり我慢できない事だ。仕事が少ないのにしっかり税金は納めなくてはいけない。仕事がある人はまだいい。地下都市に潜り地上でしか会社が機能しない事があったりするとその人たちは職を失ってしまうのだ。すでに食料は配給制度をとる国もあり食糧危機が叫ばれ始めた頃だった。