yamatoへ… ユキバージョン 7
(や…うそ…。)
最後にもう一回、と思い5回目の射撃訓練を始めた時突然足元がふらついた。次の瞬間目の前が暗くなるのがわかる。
(真田さん…)
ユキの意識はそこで途切れた。
「貧血ですね。」
ユキは医務室に運ばれていた。
「そうですか。」
男は心底ホッとしたように息を吐きながら声を出した。と同時にユキの眼がうっすらと開いた。
「気付きましたね?」
ユキはそこがどこかわからなかった。ただ真っ白な部屋でベッドに寝かされ目の前に白衣を着た男性がにっこり笑いこちらを見てその横に大柄の男性が心配そうに立っていた。
(えっと…渡辺さん、っておっしゃったわね)
ユキは名前を思い出し
「あの…渡辺さん…ご迷惑おかけしました。」
ベッドの中からお礼を言う。
「いや、俺の方こそ体調が悪いなんて考えず…悪い事をした。戦闘班の女性と
同じように扱うな、と今この先生に怒られた所。」
渡辺は心底悪かった、と言うように頭を下げた。
「いえ、私が無理だ、と言えば済む事でした。いろいろご指導いただきありが
とうございました。」
渡辺の指導のおかげで一番レベルの低い所であれば的中率は100%を示していた。だから気分が良くなったユキは“疲れてる”と感じていたのに訓練を続行させてしまったのだった。
(いけない…真田さんに…)
ユキは次第にしっかりしてくる頭で次の事を考えた。こんな所で寝てるなんて後からバレたら…保護者として付いて来てくれているのに申し訳ないと思いベッドから起き上がろうとしたところを医師に止められた。
「どうしました?」
医師がユキに向かい聞いた。
「いえ…連絡を取りたい人が…」
ユキは携帯を探したがない。渡辺が申し訳なさそうにユキの携帯を自分のポケットから出して渡した。
「訓練室の個人ロッカーにあったんだ。無断で持ち出しちゃったけど…。」
携帯はポケットから。通信機と端末は渡辺のカバンの中から出てきた。
「ありがとうございます。助かりました。」
ユキは素直に受け取り真田に連絡を取った。
「森くん!」
真田が慌てた様子で走りながら医務室に入って来た。ユキはベッドから半身を起こし渡辺と話をしていた。
「真田さん、すみません。」
ユキがベッドの上から謝る。そして渡辺も“すみません”と頭を下げた。
「彼女の体調も考えず…指導してしまいました。」
渡辺は真田の顔を見て一瞬驚いた顔をしたがすぐにその表情を引っ込めて頭をもう一度下げた。
「あぁ…キミが森くんを運んでくれたんだね。ありがとう。」
真田はユキの顔色をもう一度見て安心すると渡辺に向かいお礼を言った。
「多分、明日からコスモガンの訓練をする、と言ったから先回りしたんだろう?
全く…出来ない事は恥ずかしい事じゃない。まだこっちに来て間がないんだ。
まずは体調管理が一番だぞ?」
真田はユキを見て静かにそう言った。
「はい。」
ユキが素直に頷く。そこへ渡辺がユキのスコアーを真田に手渡した。
「一番低いレベルですが100%はクリアーしています。」
真田が受け取ると渡辺は敬礼し医務室を出て行った。
「森くん…無理はダメだぞ?」
真田の表情が優しくなる。
「すみません…足手まといになりたくなくて…真田さん、自分の仕事をしながら
私も見てるから少しでもそちらを優先してもらおう、って思って…。」
ユキの言葉が尻つぼみになる。確かに真田は忙しい。ユキとマンツーマンで訓練しているがその最中も通信機がよく鳴る。
「それだって…見せるほどもんじゃないわ。だって一番レベルの低い所、なんで
すもん…恥ずかしくて誰にも見せたくなかったのに…。」
ユキが涙目になる。
「ユキ、これは訓練生が訓練するものじゃない。戦闘員が訓練に使うものだ。
つまり、全ての訓練を終え、次の配属を待つものが出来る訓練だ。」
真田は訓練生の訓練と同等ではないと言いたかった。
「ここで100を出してる、という事は訓練生以上になっているという事だ。
渡辺さんの指導もよかったんだろうが…いや、素晴らしいよ。」
真田がスコアーをみて喜んでいる。
「明日の訓練計画少し練り直す必要があるな。」
真田は右手を顎に当て考え始めた。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 7 作家名:kei