yamatoへ… ユキバージョン 7
翌日からほぼ休みなくユキは真田と一緒に訓練に参加していた。真田は口は出さず指導してくれる人の後ろにいる。ユキは真田から指導されているようなそんな安心感があった。
午前中は艦載機、午後は小型艇と中型艦、夜は射撃訓練と毎日同じメニューだったが訓練機を毎回替えワンパターンにならないようにいつでも集中できるようにしていた。
一度乗ったらフラフラだった艦載機もGに慣れ多少の頭痛は残るもののしばらくすれば落ち着くようになっていた。小型艇の訓練も順調でこちら方が早くライセンスを修得する事が出来た。
ふたりは一日の訓練を終えて寮の食堂に来ていた。
「さて…森くん。最初のライセンスを取った感想は?」
嬉しそうにライセンスの証明書を見るユキに真田が聞いた。
「はい、とっても嬉しいです。看護師の資格を取った時より嬉しいのはなぜで
しょうか?」
ユキが反対に真田に聞いた。
「ははは…俺もライセンス持っているが…そうだな一番最初の、か。俺もやはり
嬉しかったな…。」
真田は共に学んだ学友の顔が浮かぶ。しかしその中の数人はすでに故人となっている者もいる。ユキは急に沈み込むような顔に変わった真田を見て聞いてはいけない事を聞いてしまったのかと肩をすぼめる。
「でも…確かに一番いい時だった、と言える。俺は行く方向が決まっていたから
迷わず進む事が出来たが誰もが悩んでいた。自分に何が合っていてどう進む
べきかを…。俺の親友達は自分の行先をしっかり見ていた。まぁ…俺の友人は
親友は二人しかいないがな。」
真田は苦笑いをする。
「いいじゃないですか、お二人もいらっしゃるなら。私なんて誰もいません。
友人と呼べる人は誰も…。ただ助けてくれる人がいてくれたから今こうして
ここにいられるんですけどね。」
ユキは小学校を卒業する時の校長の事や担任の事、全て内密で動いてくれた山村、塾の講師以上の力を注いでくれた浜崎。全く知らない人間に根気よく教えてくれた緒方…。
「きっとこの先いい仲間に巡り合えるさ。同じ目標を持った志の高い仲間が。
森くんにはまだその“志の高い”人と巡り合っていないんだよ。大丈夫、
俺が保証する。」
真田がユキの顔を見てしっかり言った。
「真田さんは…」
ユキが聞きにくそうに真田の眼を見た。
「ん?」
真田が何でも聞け、と言わんばかりに頷く。
「私をどう思いますか?」
ユキが真剣な顔で聞いて来た。
「全てのライセンスを修得して教えるものが無くなったらもうさようなら、に
なっちゃうんですか?」
ユキは目標を達成する度にその都度自分を支えてくれていた人が離れて行ってしまう、そんな気持ちを持っていた。一番支えてくれる存在…親と決裂しているユキは時々精神状態が不安定になる。真田は自分が一番それをよく解っていた。
「いや、俺はずっと森くんと一緒にいるよ。俺は今までもこれからも森くんの
保護者だ。なんなら結婚相手もちゃんと俺が品定めしてやる。」
本気かウソかわからないような事を突然いう真田がユキは大好きだった。
「いやだ、真田さんのお眼鏡にかなう人なんているわけないじゃないですか。」
さっきまで不安で不安で仕方ない、と言う顔をしていたユキとは思えない程コロコロ笑う。真田は笑うと年相応だな、と妙な所に感心してしまった。
「ちなみにその学友の方は今何を?」
ユキが身を乗り出して聞く。
「え?面白くない話だぞ?」
真田が“そんな話聞きたいか?”と聞くとユキは身を乗り出して首をたてに何度も振った。
「まず…ひとりは俺らの同期のTOPでな…一番目立つ男だった。男からも女性
からも人気があってカリスマ的存在だったな。砲手としての腕もピカイチだっ
たし…俺が言うのもなんだが男から見てもいい男だ。俺は地味で余り人と
関わりを持ちたくなかったから遠目にその男の事を見ていたんだがその男は
そんな俺に興味があったらしく毎日のように部屋に来て…ひどい時は俺の
ベッドを自分のベッドのように使って寝てた、なんて事もあった。でも不思議と
腹がたたないんだよ。よく訓練でチームを組んだが息も良く合ってな…このまま
ずっと訓練生時代が続けばいい、と思ったぐらいさ。そのうちあの遊星爆弾が
落ちるようになったらそいつは率先して飛んで行ったさ。今は月基地にいるが
近々で火星に行くらしい。」
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 7 作家名:kei