yamatoへ… ユキバージョン 7
真田が時折笑みを浮かべながら話す。
「心配じゃありませんか?」
よほどユキの方が心配してる、と言う顔をしていた。
「心配じゃない、と言えばウソだが…あいつは何があっても帰ってくる、と
信じている。そうだ、ちょうど森くんぐらいの弟がいてね…弟くんと休みが
合致する時は絶対予定を入れないようにしていたな。彼女より弟優先だった。」
真田は守と進がよく会っているのを知っていた。
「素敵なご兄弟なんですね。」(ユキ)
「あぁ、弟がデキがいい、って聞いた。会った事ないんだがなんだか他人の
様な気がしなくてなぁ…。いつか会って話をしてみたいよ。兄貴の事について。」
真田が笑う。
「男同士っていいですね。」
ユキが心底羨ましそうに言う。
「そうだな、でも女同士も楽しいんじゃないか?」
真田の言葉にユキは首を横に振りながら答えた。
「何度も女の子に生まれた事で親を恨みましたよ。だって“女の子だから”って
だけでお料理手伝わされたり洗濯物畳まされたり。確かにそれも大事だと
思うけど女ばかりがしないといけない事じゃないと思うわ。」
かなりむっとした様子のユキに真田が笑う。
「つまり…森くんは家事が苦手、なんだね?」
真田が思わず噴き出したところでユキが真っ赤になった。
「別にいいと思う。そんな森くんでいい、って人を探せばいいんだから。」
真田がユキをフォローするがユキは“そんなんじゃありません”と言いながら真田から顔をそむけた。その顔は真っ赤だった。
「まぁ森くんは見た目と違って結構男性チックな所が多いからなぁ。」
ユキはそう言われ真田の顔をまじまじと見た。
「大体女性は“連れ”る、だろう?森さんは苦手そうだし。」
ユキは少し考えてうんうん、と頷く。
「訓練学校でも“連れ”る女性ばかりだった。だけど出来る女性って“連れ”
ない人ばかりだったよ。流されない自分をちゃんと作っている人だった。
だけどちゃんとコミュニケーションはとっていて…あぁ、できる女性って
こんな感じの人かな、って思った。」
ユキはその事を自分に置き換えてみる。
「でも…私普段は全然コミュニケーション取れませんでした。」
ユキが反省しながらつぶやく。
「それは小学校の時の事だろう?俺が見るに森さんの精神年齢は同級生より
遥かに高いと思う。それじゃ一緒にいる事は無理だろう。しかし訓練学校に
来ているという事は誰もが15歳以上で普通の中学を卒業してきた連中だ。
森さんはそこも飛んでいきなり大学生。大学生の中に入っても森さんの精神
年齢は決して低くなかったはずだ。むしろ森さんの方が上だろう。」
真田は医師から看護士に転向した事を思い出した。同期が医師になるために医大に残るよう説得していた事も。
「自分の足で歩こうと決めたのが12歳。普通は中学へ通い高校を選び大学へ
進学する。そこでそろそろ自分の未来を本気で考えるんだ。まぁ中にはもっ
と前に未来を考えて進学する子もいるけどね。」
真田は自分の過去を思い出しながら話す。
(姉さんが生きていたら俺は科学者にならなかったかも…あの事故が全てを
変えた…でもその事があったから森くんはここにいるんだろう。藤堂さんが
どこまで私の事を知っているか知らないが…)
真田は胸の奥にいつもいた姉の黒い影が無くなっている事に随分前から気付いていた。
「大丈夫だ、森くんは思った通りに行けばいい。後の事は私が全てやるから。」
真田の笑顔にユキは不思議な人だ、と思った。自分の仕事は後回しにして私にずっと付いていてくれる。怖そうな人だと最初は思ったが噂で聞く人物像と随分違う事に気付いた。
(この人について行けば間違いない)
ユキはやっと自分の事の全てを理解してくれる人と出逢えた、と嬉しくなった。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 7 作家名:kei