yamatoへ… ユキバージョン 7
地球へ戻りユキは中央病院と訓練学校へ通う日々が始まった。中央病院の勤務がある日は仕事が終わった後訓練学校で射撃練習や艦載機などのシュミレーションをする。訓練学校へ通う日は丸一日朝から晩まで訓練。普通の訓練を終えると自主練に入る。訓練学校で訓練する日は真田が付きっ切りだった。(ポータブル端末とにらめっこするのはしょっちゅうだったが)
傍から見たらそれはすごい厳しい訓練で巷ではいつか彼女が倒れる、とか根を上げるだろうと話が出るぐらい厳しかった。だけどユキは付いて行った。どんなに辛くてもこれを乗り越えれば未来が見えるかもしれない、と思いながら。
時々“医学部に戻ったら?”と声を掛ける医師やインターン達もいたがユキは“現場に出れてますからいいんです”と笑顔で伝える。もちろんその笑顔を患者にも忘れない。おかげでユキは中央病院で目立つ存在となっていた。
「よく頑張るね。」
ユキが外来のカルテをチェックしてる所へ先輩の看護士がやってきた。
「依田さん、お疲れ様です。」
真田程ではないが体のがっちりした背の高い人だった。
「森さん、今日はもう終わり?」
依田と呼ばれた男は消毒された器具を手袋をはめた手で一つ一つ確認しながら棚に戻していた。
「えぇ終わりだけどちょっと行くところがるの。」
訓練学校へ行って今日はコスモガンのシュミレーションをした後小型艇のシュミレーションが待っている。
「そう、残念。」
依田は苦笑いをした。
「え?なにが?」
ユキが不思議そうに聞く。
「普通はそう聞かれたら“お食事にでも誘いたいのかしら?”って思うんだよ。」
依田が吹き出しそうに答える。
「え?」
ユキが意味が分からない、と言う感じで聞き返した。
「いや、いいんだ。」
依田はそれから器具を戻し終えると“ジャマしたね”と言いながら部屋を出て行った。
「へんなの。ご飯?食べてる暇ないわ。」
ユキはそうつぶやくと再びカルテに視線を移した。
真田はユキの不機嫌な顔がすぐにわかった。
「今日は何があったんだ?」
真田がシュミレーションを終えたユキにコーヒーを差し出す。
「いえ…みんな暇なのかしら?って思って。」
“ありがとうございます”と受け取りそうつぶやくように言った。
「あの、食事に誘う、ってそう言う意味ですか?」
ユキがハタと思い出したように真田に聞いた。
「…ふむ、そう誘われたんだな?」(真田)
「そんなニュアンスの事を言われたんですけど…。」
ユキの答えに真田が笑う。
「もう…!真田さんも私を食事に誘ったじゃないですか。」
ユキが口をすこしとがらせて聞いた。
「真田さんと食べると楽しいから行ったけど…」
ユキの言葉が尻つぼみになる。
「ははは、それは光栄だな。」
真田もユキの評判を陰ながら聞いていた。美人だから目立つ、上に自分と動いている事もありさらに目立つ。中にはふたりは付き合っている、とうわさも出ていた。
「真田さん、笑いごとじゃないです。」
ユキが真剣な顔で真田を見る。
「悪い、悪い。だがその男は見る眼があると思うぞ?森くんは何をやらせても
なんでもこなしてしまう頭の柔らかさがいい。中には見た目重視の者もいる
だろうがな。」
ユキはそれでも納得のいかない顔をしている。
「まぁいいじゃないか。告白してこなかった、という事は森くんとこの先も
ただの同僚でもいいから仲間として一緒にいたい、って判断したんだろう。」
告白して振られたら同じ職場にいるのもお互いぎくしゃくしてしまう事をユキは初めて気付いた。
「な、そいつは大人なんだ。今まで通りに接すればいい。多分その人もそれを
望んでいるだろう。」
真田はユキのシュミレーションを組み立てながら話す。そのカリキュラムを組んでいる端末を叩く手はとても軽やかだ。
「…はい。」
ユキは真田を尊敬のまなざしで見つめる。仕事上の事だけでなく私的な事も相談すると全部きれいに腑に落ちて行くのだ。さっきまで納得できない、と思っていた気持ちはどこにもなかった。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 7 作家名:kei