yamatoへ… ユキバージョン 7
「ユキちゃん、久しぶりだね。ちょっといい?」
真田に急な出張が入りユキは夜の訓練が中止になり珍しく早く寮に戻っていた。すると偶然、寮の玄関で岡本とバッタリ遭遇した。
「あら、岡本さん、本当久しぶりね。インターンで活躍してる事は知ってるわ。
すごい腕のいいインターンだ、ってね。」
ユキが自分が褒められているかのように嬉しそうに岡本に言った。岡本は一瞬嬉しそうな顔をしたがその顔をすぐに引っ込めて“ちょっといい?”とロビーに誘った。
「元気そうで何より、だわ。外科、よね?」
ユキは岡本が専攻していた分野を思い出して話す。
「そう、今はオペの立会ばかりかな。夜は研修代わりに緊急にいるよ。」
岡本は久しぶりにユキに会えて嬉しいが何だか複雑そうな顔に見えた。
「なぁに?」
ユキが小首をかしげる。
「いや…本当に戦艦に乗るのか?って思って。聞いたんだ、毎日訓練学校に
ユキちゃんが顔を出してる、って…。ライセンスもたくさんとっていつでも
飛べる、ってさ。」
岡本がひとつひとつ確認しながら話す。
「満足に敵と戦える戦艦なんてないんだ。死地に行くようなもんだ、と口を
そろえて誰もが言う。ユキちゃんはまだ17だろ?ダメだ、命を粗末にしては。」
ユキの顔色がいっぺんに変わった。
「ここにいても…いつか誰も住めない土地になるわ。月に移住しても火星に
移住してもきっとあの遊星爆弾は地球市民が移動する先に落ちてくる。
どこにいてもあの遊星爆弾からは逃れられない。私は指をくわえて見てる
だけ、って嫌なの。」(ユキ)
「でも…だからって命を粗末にしていいのか?」(岡本)
「私を必要とする手があれば私はそこへ行くだけ。それだけよ。」
ユキは岡本から視線をずらし自分の手を見つめた。
「私は戦う事が出来ない。だったら戦う人の力になりたい、って思うの。」
ユキは自分の手から視線を岡本に向けた。
「岡本さんは地球で命を救う。それでいいじゃない。」
ユキの視線は強かった。迷いのない真っ直ぐな目、だった。
「もう、いいかしら?疲れているの。」
ユキは岡本にそう言うと立ち上がり女子寮へ向かって歩き出した。岡本は何も言えずユキの背中を見つめる事しかできなかった。
「森くん。」
シュミレーションが終わり控室で今日の成績を見ている所へ真田がやってきた。
「今日もいい感じだ。」
真田が素直に感想を言う。
「中央病院から森くん宛てにそろそろ泊まりの任務をさせてもらえないだろうか
と相談があった。私は森くん次第だと返事をしておいたがどうだ?」
泊まりの任務が入ると毎日こうして訓練はできなくなるが普通の看護士と同じ扱いになる、という事だ。
「訓練学校はもう卒業してもいいだろう。基本的な訓練は全て終わった。
シュミレーションがしたい時は訓練学校でなく訓練所で出来るよう手配した。
今後も私が後見人、という事は変わりない。」
真田はユキを安心させるためにそう言った。ユキは不安そうな顔を真田に向けていたが“今後も後見人だ”と言う言葉に安心したのか胸をなでおろすと“わかりました”とはっきり言った。
「森くんも17歳になったんだね。」
真田が履歴を見ながらつぶやいた。
「えぇ、小学校を卒業してあっという間に5年が過ぎました。」
ユキはふと両親に5年も会っていない事を思い出した。そう言えばyokohamaに転勤になったと随分前に聞いて時々メールは来るが来たメールの半分も返していない事に気付いた。
「早く!来るわよ!!」
少し前に宇宙防衛軍の基地で事故があり負傷者が運び込まれると情報が来た。医師と看護士は緊急搬送の玄関で数名が待機していた。もちろんユキもその中に含まれていた。
しばらくすると救急車の音が聞こえてくる。地下都市の為何重にもエコーがかかったように聞こえる。次第に音が大きくなり姿が見え始めると医師たちの前で救急車は止まった。急いで後ろの扉を開く。そこには血まみれの人がベッドにぐったりしたまま横たわり心臓マッサージを受けていた。
「状況は?」
患者は病院のベッドにうつされた。男性の医師が心臓マッサージを代わり別の医師が状況を聞く。看護士たちも慌ただしく動き始めた。ユキも患者に近寄った…ときふと顔を見て一瞬固まった。
作品名:yamatoへ… ユキバージョン 7 作家名:kei