yamato… 古代とユキ 5
「お疲れ様…急いで仕事終わらせてきたんでしょ?大丈夫?」
食後の紅茶をソファーでくつろぐ進に淹れた
「余り上手じゃないけど紅茶が美味しいから大丈夫だと思うわ」
「ありがとう」
進はかなり疲れた様子でソファーに体を投げ出していた。ユキの脳裏に
今日読んだカルテが過る
(大丈夫かしら…あれから3年近くなるけど…疲れやすかったりしたら
一度ちゃんと診てもらった方がいいかしら…)
ユキがいつになく落ち着かない様子だったので
「大丈夫だよ、アイツにユキに指一本触れさせないから…」
進は少し強引にユキを引き寄せた
「本当はそんな危険な任務なんか辞めろって言いたいんだ…大崎
だけじゃない…もっと危険なテロと背中合わせだ。それだけじゃない
世界中の男がユキを見てるんだ…誰にも見られないようにしてしまい
たいんだ…」
進は力いっぱいユキを抱きしめた
「分かってるんだ…俺のエゴだって。できないって分かってるからこそ…」
(いっそのこと今ここで俺のものにしたい…)
切ないほどの心がユキにもわかっていたがユキ自身それをどう受け入れたら
いいかわからずにいた。息が止まりそうなほどの力で抱きしめられてユキは
幸せを感じながらも進の心の声に答えられるほどの余裕はなかった
(岡本さんと大崎さんが一緒…)
そう思うだけで岡本との行為が思い出され震えてしまう。相手は進だと言い聞か
せても震えは止まらない。進はそっと力を弱めて震える手をそっと包むのだった
〈とうさん、かあさん…待って…今、追いつくから…そこにいて…〉
進は13歳だった。一生懸命父と母の後ろを走っているが両親は歩いてるのに
追いつけない。
一生懸命走るとやっとのことで母に追いついた
〈かあさん、やっと追いついた!〉
母の手を握ると前を向いていた母が振り返ったので進は笑顔でその顔を見たが
その瞬間母の顔はただれ始め顔だけでなく体もただれ始め燃え始めた。進は
思わず熱い手を払いのけ座りこんだ瞬間後ろから呼ばれた
〈〈どうした?進?〉〉
父の声だった。すがるように“とうさん、かあさんが…”と言いながら振り向くと
父の姿もすでにただれはじめすでに顔は燃え始めていた
〈〈進、どうしたの?何を驚いているの?〉〉
ふたりはとけながら、もえながらも進に近付いてこようとする
進は座ったまま後ろへずれながら泣いていた
〈うそだ…とうさんとかあさんじゃない〉
〈〈何を言っているの?ほら、待っていたのよ…一緒に暮らそう?地下都市で〉〉
「うぁぁぁぁぁ!!!!!!」
今までにない叫び声を聞いてユキは飛び起きた
「古代くん、古代くん!」
進はしっかり目は開いているが宙を見て暴れている。ユキはなんとかしなくては
と思い進に覆いかぶさった。すごい力ではねのけられそうになったが寝てる人間
に覆いかぶさったのでなんとか暴れてるのは止まった。ユキが起き上がると進は
茫然と宙を見て涙を流していた
「古代くん、大丈夫?怖い夢みてたのね?夢よ、夢。」
ユキが優しく声をかけると
「かあさん、かあさんがね、溶けて燃えてったの。とうさんも。それなのに
僕を追いかけてくるんだ。僕熱くてどうしたらいいかわからなかったの」
ユキはその告白に衝撃を受けながら
「そう…そんな怖い夢を見たの…大丈夫よ、かあさんがここで一緒に寝て
あげるから怖くないわ。さぁ寝ましょう?」
そう言うと嬉しそうに
「よかった…でもかあさんといっしょに寝ること隣の舞ちゃんに内緒ね。
アイツすぐ学校で言うんだ。」
ユキは思い切って聞いてみた
「そうね、進はいくつになったんだけ?」(ユキ)
「ヤダなかあさん忘れたの?僕12歳。もうすぐ誕生日がきて13だよ。」
(被爆前だわ)
「もうすぐ兄さんにも会えるし…会ったらすぐ避難でしょう?海も山もしばらく
見られないんだよね。残念だなぁ」(進)
「そうね、たくさんお話してらっしゃい」(ユキ)
「とうさんもかあさんも行こうよ」(進)
(きっとそう言ったのにご両親は行かなかったのね)
「行きたいけど行けないの。ごめんね」(ユキ)
「うん、でも僕ひとりでも大丈夫だよ。もう中学生だからね!」(進)
「ええ、気をつけて…」(ユキ)
「おやすみなさい」(進)
「おやすみ」(ユキ)
作品名:yamato… 古代とユキ 5 作家名:kei