yamato2 それから 1
ちょうどそこへ車いすの太田と相原が進の部屋に入ってきた。
「古代…よかった…あの時、どうしたらいいのかわからなかったよ。」
相原がボロボロ涙を流しながら…太田の車いすを押しながら進のベッドサイドに来た。
「悪かった…あの時は…」
進が話し始めようとしたとき
「いいよ、もう…帰って来てくれたから。」
太田がいつもの笑顔で進に向かって言った。
「島も戻ってきたし…南部だってきっと大丈夫さ。あいつ、死んでも
“死にきれない~”って生き返りそうなぐらいの生命線の持ち主なんだ。
だから…大丈夫。」
太田はそう言うと“信じてる”と言わんばかりに頷いた。太田と南部は訓練予備生からずっと一緒だからきっと通じるものがあるんだろうと進は思った。
「ICUで二人を見てきました。島は心電図だけ繋がれていて点滴もなにも
していません。南部はありとあらゆる機械に繋がれていて…ご両親が
様子を見守っていました。挨拶したんですが反対にこちらの体調を気遣
ってくれました。いつもこっちが世話になってばっかりなのに…」
太田が二人の様子を教えてくれた。進は自分が出した指示で南部がけがをしたことを思い出していた。
「南部のけがは…」(進)
「爆風によるやけどと吹っ飛ばされた事で左鎖骨と肋骨、胸骨、左腕の骨折
右腕は庇ったのか打撲程度らしいけど両足にもヒビが複数入っていて
意識が戻ってもしばらくはベッドから起き上がれ無さそうだよ。」(太田)
「そうか…他は?」(進)
「あぁ、戦闘班の……」
ICUに入っているクルーは全部で4人。島のほか3人は戦闘班だった。
「そうか…ひどいけがだな…よく…助かったな。よかった…」
言葉ではそうつぶやいたが顔が“よかった”という顔をしていなかった。大勢がこの戦いで亡くなった…また自分は仲間の屍を越えて生きて行かなくてはいけない、と思った。
「古代、お前だけがつらいんじゃないぞ。」
黙って聞いていた真田が口を開いた。
「指示を与えて…死んで行った者はたくさんいる。俺たちは…そのクルーの
痛みを乗り越えて…一緒に生きて行かなくてはいけないんじゃないか?」
真田もかわいがっていた乗組員を失っていた。誰もがその最後の言葉を聞いている。
「真田さん…」
進は新米の事を思い出し真田の顔を見た。決して感情が出るタイプの人でない真田だったが必死に涙をこらえているのがわかった…。進の横で耐え切れずユキが泣き出してしまった。進はそっとユキの手を握った。
「ユキ…」
進が声を掛けると
「…あの戦闘で…治療が間に合わずに…待っている間に亡くなったクルーが
たくさんいたわ。救える命だった…だけど誰も“早くしてくれ”なんて
言わないのよ。もっと私がテキパキしていたら…もっとたくさんの人が
帰れたかもしれないの…ごめんなさい…」
ユキは小さな声でそう言うとブランケットを頭からかぶって泣きじゃくった。
「ユキは精一杯の事をしたんだ。ユキは一人ひとりちゃんと声を掛けて
治療してたじゃないか。ユキは頑張った…先生一人に看護師一人だ。
あれだけの戦闘だと…仕方ないと一言で片付けられないが…」
慰めてる真田も言葉が続かない。真田はブランケットの上からユキの頭を撫でた
「己の持ち場を最後まで護れ…それが全てだ。」
太田がとつぜんつぶやくように言うと進も真田も相原も太田を見た。
「訓練予備生を卒業する時に送られた言葉なんだよね。みんな一通りの事は
できるようになってるけどさ。相原はユキさんに応急処置を教えてもらっ
てたけどそれは応急処置であってあの戦闘じゃとても追いつかない。
ユキさんはあの修羅場を逃げ出さず一生懸命頑張った…俺はそれで充分
だと思うけどなぁ…」(太田)
「ほら、ユキ…わかってくれる人がちゃんといるじゃないか。」
真田が優しく声を掛けると真っ赤な目をしたユキがブランケットから顔を出した。
「これからが大変ですよ…長官が記者会見しました。地球市民は全てを
知りました。」(相原)
「え?」(進)
「お前、知らなかったか…ヤマトから取り外した通信記録とアナライザーの
記録を全部長官に預けた。聞いていたが何も脚色せずそのまま、ありのまま
を報告してくれた…。そして最後にヤマトが飛び立つ時…乗組員が反逆者
というなら私も同罪です、と。ヤマトが行く事はわかっていました。
だから私は燃料や弾薬、食料に至るまで全て私が手配した、と…。」
作品名:yamato2 それから 1 作家名:kei