yamato2 それから 1
相原は報告を続けた
「長官も…自分の持ち場を必死になって護ってるんだと思います。全てを
報告すれば長官でいられなくなってしまうかも知れないのに今は私たち
クルーを“護る”為に必死に戦ってくれているんです。」
相原の言葉に進は愕然とした。出航の時信管を抜いただけでなくそこまで自分たちの事を考えていてくれたのかと思うとその思いにどう答えたらいいのかわからなかった
「長官は最初からずっと味方でいてくれてたんだ。長官も…ヤマトのクルー
の一人だ、って事だな。」
真田はそう言ってひょこり出てるユキの頭を撫でた。ユキの瞳にはさっきと違う涙が光っていた。
しばらくすると看護師が車いすを押しながらユキを呼びに来た
「森さん、昨日の検査の続きをします。こちらに移動してください。」
看護士はベッドの横に車いすを付けた。ユキは点滴を気にしながらベッドを下りて車いすに座ると看護士は“失礼します”と言いながら進の部屋を出て行った。
「行ってきます。」
青白い顔色のまま看護師に車いすを任せ進の部屋を出て行った。ユキが部屋から出ていくとほかのクルーも自分の部屋に戻って行った
進は仰向けになり目を閉じた。するとクルーの最期の姿や声が次々とまぶたの裏に出てきた。
(山本…加藤…斉藤…徳川さん…新米…土方さん…テレサ…)
まぶしい光と共に現れて島を置いて行ってしまったテレサ…それはまさしく女神そのものだった。
(テレサさん…あなたは今、幸せですか?)
閉じたままの進の眼から涙が流れた
どれぐらい時間が経っただろうか…進は自分がいつ眠ったのかもわからなかったが左腕が軽いのを感じ左側を見ると点滴が終わっていた。
(少し…痛みが出るかな…)
横のベッドにユキは戻って来ていなかった。ふと外を見ると今までと同じ世界が広がっているのにどこか悲しい感じがした。
(山本…加藤…見てるか?平和だ…この海にあの都市帝国が浮かんでいた
なんて…ウソみたいだよな…。あの時…長官がボートを反転してくれな
かったら…俺たちは帰るところを失い地球は植民地化されるために軍関
係者は処分、となったかもしれないな…)
進は青い空を見上げ何となくそう思っていた。進がぼんやりしてると扉をノックする音が聞こえた
「はい」
進が返事をすると藤堂が入ってきた。
「長官…」
進はベッドに寝たまま敬礼した。
「ふむ…佐渡君に聞いたよ…余りよくない、とね。無理しなくていい…
楽な姿勢で…。(窓の外を見て)いい天気だな。」
とつぶやくように言った。進もつられて外を見る。
「こんな風にゆっくり空を見上げられなかったかもしれんな…あのまま
だったら。」
藤堂は進のベッドの横の椅子に座った。
「きっと…我々は処分だっただろう。奴隷として使っても誰かが中心に
なって事を起こす可能性があるからな…あの時…全てが変わったと言って
も過言でないと思う。私は堂々と言える…あの判断は間違っていなかった、
とね。いろいろ苦労を掛けた…辛い戦いだった…本当にすまなかった。
だが古代だけに背負わせたりはしない。私も一緒に…君が背負っている
荷物を背負わせてくれないか?私があの時もっと強く主張できたら…
若い…これからこの世界を生きて行く彼らが…こんな老いぼれが生きて…
時間を戻せるなら、と何度思った事か…」
藤堂の眼から涙が落ちた
「長官…」(進)
「キミたちは何も心配しなくいていい。治療に専念してくれ。」
藤堂は涙を拭きながらそう言った。
「長官、すべてが終わったら…引退、なんて考えていませんか?」
進が少し厳しい口調で聞くと藤堂の動きが止まった。
「まだ、終わりじゃないんです…これからなんです。私たちは…これからも
地球を守らないといけないんです。それには長官が必要なんです。
私たちには長官が必要なんです!」
進の訴えに藤堂は何も言えずにいた。
「防衛軍の中でヤマトを巡っていろんな事があるのは知っています。
反ヤマト派が長官の行動を妨げてる事も知っています。」
元ヤマトの乗組員があれだけの功績を残しているにもかかわらずほとんどがイスカンダルへ行く前と変わらない業務をこなしている。それは反ヤマト派が“嫉ん”で昇進させない、とうわさが流れていたのだ。“若すぎる”と理由をつけて昇進させない、と聞いていた。
作品名:yamato2 それから 1 作家名:kei