yamato2 それから 3
「なぁ、明日ユキを借りていいか?」(島)
「ユキを?」(進)
「外出許可もらって英雄の丘に行きたいんだ。」(島)
「う~ん、造血剤の効果もあまり出てないみたいで調子よくないみたい
なんだよなぁ」(進)
「主治医の許可とっても彼氏の許可が下りないか?」(島)
「あのなぁ…そんなんじゃないって…全く…」(進)
「ここからタクシーで行くし…体に負担掛けないようにするよ。」(島)
「…だけどどうして急に?」(進)
「俺さ…テレサの事何も知らないんだよ。」(島)
進は最後、テレサと話した時の事を思い出していた。
「それに…ユキ、テレサと話した事があるような感じがあるんだ。だから
それを直接聞きたいんだ。」(島)
(そうだ…あの気高い女王のスターシアさんもユキには心を開いていた。
ユキは頑なな心を優しく解きほぐしてくれる…そんな力を持っているの
かもしれない…俺もそれにあやかった一人かな…)
進はそう思った。
「まぁ…許可するが…絶対襲うなよ?」(進)
「あぁ、“今度は”気を付ける」
島が変なところを強調するので進は“え?”と思ったが敢えて気にしないようにした。
「お前が一番変わったよな。」(島)
「そうか?」(進)
「古代、お前は幸せになれ…」(島)
「言われなくても大丈夫だよ。俺たちは…この世で一番幸せだと思ってる。
ユキとお前と…真田さんと南部…太田と相原…そして……加藤…山本…
いい仲間に巡り合えて…本当に俺は幸せだと思ってる。だから今のまま
しばらく、って思ってる。」(進)
「古代…」(島)
「この航海があって俺たちは結婚が全てじゃないとわかったんだ。そして
一緒にいる、という意味がはっきり判った…お前とテレサさんのように
形で表せないものがある、って…何があってもたとえ離れていてもそばに
いる…そう思えることが幸せなんだ、ってわかったから…」(進)
「ユキは…」(島)
「二人の気持ち話し合って…ユキがとても結婚式を楽しみにしていたから
ちょっと後ろめたい気持ちもあったんだけど…な…。」
進はそう言って頭を掻いた。
(確かにお前は幸せ者だな…)
翌日ユキは外出許可をもらい島と一緒にタクシーに乗っていた。
「ラウンジでの事…」
島がラウンジでのことを謝ろうと思ったが
「私が…テレサさんに見えちゃった?」
ユキがおどけて答える。
「私は気にしてないわ。古代くんにも何も言ってないし…」
前を見つめるユキの長いまつげが揺れる。島は強くなった、と思った。もし最初の航海の直後だったら岡本の事など知らなかったから完全拒絶反応を示していたかもしれない…
「…そうか…済まなかった…ありがとう。」
ユキは自分の事で二人の仲に何か事が起きるのを避けたかった。
ポツリポツリ会話をしていると二人は英雄の丘に着いた。古代が先に連絡しておいたので丘の頂上付近までエアカーが入ることができた。
「あいつ、随分手回しいいな。」
島はそう言って笑ったがユキの体調を気遣っての事だろうとすぐに分かった。二人はタクシーが止まると英雄の丘を目指してゆっくり歩いた。英雄の丘は新しいレリーフを設置する工事の途中で新しい土台が並んでいた。
二人は最初に沖田のところへ行くと黙とうをささげ一番近くにあるベンチに座った。
「…俺さ、一週間一人でずっと考えてた…」
島は向かい合って座るユキの顔は見れずうつむいて自分の手を見つめながら話していた。
「俺は…テレサになにかしてあげられたのか、って…」
ユキは島の苦しい心がよくわかった。最初、進の苦しい心がわからなかったころを思い出していた。
「教えてくれ…テレサの様子を…何でもいい、俺を罵ってた事でも何でも
いい…」
ユキは自分から伝えてしまっていいものか悩んだ。だけど自分の胸の内にだけにしまっておくのも苦しかった。その時南部をはじめメインクルーの言葉が脳裏をよぎる
“俺たちがついてるから大丈夫”
ユキが大変な時も…進が大変な時もクルーが付いていてくれた。
(私だって力になれる…)
ユキは深呼吸をすると全てを話す決心をした
作品名:yamato2 それから 3 作家名:kei