yamato2 それから 4
進は何もすることがなくなり遺体安置所だった会議室の隅に片付けられていた椅子を出して座ってぼんやりしていた
(家族は…どんな気持ちで自宅へ迎え入れたのだろうか…)
進の眼から不意に涙が落ちた
(あんなに泣いたのに…涙って枯れないんだな…)
眼を閉じると犠牲になったひとりひとりの思い出が頭をよぎる…進はそのひとりひとりの名前を口に出してぽつりぽつりと独り言を言った。
「斉藤…お前は本当に困ったヤツだったよ。だけど…最初にちゃんと話を
すればなんてことなかったのかもな。ユキの前では別人で…ユキはダメ
だぞ?向こうから絶対呼ぶなよな。ユキは俺の彼女で婚約者だ…手を
出すなよ?部下はどうだ?苦しんでいるやつはいないか?一緒に酒呑んで
楽しくやってるか?佐渡先生がいないからいい酒ないだろう…いい酒が
手に入ったら佐渡さんと英雄の丘に行くから待ってろよ。」
進の鼻をすすった
「新米…お前は賢いヤツだった。もっとどうどうとしろよ。新米のおかげで
危機を脱出できた…本当にありがとう。真田さんが助手候補に名前を
挙げていたんだ。真田さんに付く、と言うのがどれだけ大変かわかって
ないと思うけど…」
何人もの名前が出てきて…
「加藤…山本…一緒に飛んでるか?青空を飛んでるか?お前たち二人の
アクロバット…一度見たことあるけど本当に息が合ってて…戦闘機に乗る
ために生まれて来たんじゃないかと思うぐらいだった…ふたりが一緒だと
妙な安心感があって誰にも負けない、そんな自負があった。加藤と山本が
俺を笑って送り出してくれなかったら一緒に戦艦に乗ることもなかった
かもしれないな。あの時俺は裏切り者と言われそうで砲手に転向するの
考えた…だけど二人が“古代が戦闘班長で…一緒に戦おう”ってその言葉
を胸に必死にやってきた…ヤマトに乗ってそれが現実となって…これから
どんな戦いが待っているのか想像できなかったけどやり遂げられるような
気がしたんだ…。多分それは二人とも感じてただろう?
加藤…山本…頼むからまた一緒に飛んでくれよ。一緒に飛ぶって事は
お互いの信頼関係がすげぇ大事なんだぞ?分かってるか?お前たちじゃ
ないとダメなんだよ…頼むよ…帰って来てくれよ!加藤!!山本!!」
進が床にひざまずいて床を拳で何度も何度も叩いた。痛みは不思議と感じなかった。ただ心が凍ったように冷たくて何も感じなかった。
静かに会議室の扉が開いた。進は気付かず拳を床に叩きつけている。
その上にあげられた拳を暖かい手が止めた
「ダメよ、古代くん。みんなが悲しむわ。辛くても耐えて…辛いのは
古代くんだけじゃない。」
ユキは血まみれの拳を両手で包んだ。
「冷たい…古代くんの心と同じね。大丈夫…私が温めてあげるから」
そう言うとユキは進の右手の拳を開いてを自分の心臓に当てて
「ほら、動いてるでしょう?(ユキの片手を進の胸に当てて)古代くん、
私と一緒…ね?動いてる…」
ユキの白い制服は拳についている血が付いた
「ユキ、血が…」
進が手を放そうとしたが
「思い出して泣いてもいい。だけど思い出に逃げないで。私がいる事
忘れないで。自分を傷つけても何も始まらない。」
ユキは厳しく進を見た
「あなたは古代進なの。強くなきゃいけない…辛い事ばかりだけどあなたには
私がいるわ。」
ユキは凛とした瞳で進を見た。進はユキをぎゅっと抱きしめた。ユキも背中に手をまわす
「誰もあなたを責めたりしない…私があなたを守るから…大丈夫よ。」
ユキの言葉を聞きながら進は力が抜けた。ユキは静かに床に横たえ脈を取ると完全に意識のない進のほほを触って
「一人で背負うなんて無理なのよ。」
と独り言を言って会議室に担架を一台要請した
作品名:yamato2 それから 4 作家名:kei