さらば…イスカンダル 1
「進です」
進は艦長室にいる守を訪ねた。
「どうぞ。」
中に入るとすでに幕の内は厨房に戻っていた。
「メシは?」(進)
「幕の内さんが持ってきてくれて一緒に食べたよ。うまかった…あいつ、
気を使って稲荷をつくってくれたよ。」(守)
「そうか…俺も食べたかったな。」
進がそう言うと
「お前が来るだろうと思って一つ取っておいた…」
守はそう言うと冷蔵庫からラップに包まれた稲荷を取り出し進に渡した。
「いい匂い…懐かしいなぁ…いただきます。」
進は立ったまま稲荷を食べた。
「サーシァは寝ちゃったのか…」(守)
「お風呂に入って気持ち良くなったのと疲れちゃったのとミルクでお腹が
いっぱいになったからだろう、ってユキが言ってたよ。」(進)
「そうか…」(守)
「ユキが今日は当直で起きてるからサーシァ見てます、って。兄さんも
疲れただろうから休んだら?」(進)
「……そうだろうけど…眠れるだろうか…」
守が遠くを見つめる目になった
「…兄さん…眠れなくても横になったらいいよ…今日、俺と真田さんが当直で
下(第一艦橋)に詰めてるから…何かあったら下りてきなよ…そうそう、
ユキは中央病院で小児科にいたから任せてください、って。」(進)
「そうか…じゃぁお願いするか…」(守)
進は“下に戻るね”と言って艦長室を出た。
「どうだった?」(真田)
「はい、変わりなく…ですね。生気がありません。あんな兄さん初めて
見ました。」(進)
「まぁ仕方ないだろう…俺も後で様子を見てくるよ。」(真田)
「すみません。」(進)
「お前が謝る事じゃない…俺とあいつは親友だし…誰かといると気が紛れる
かもしれないしな…」
真田はそう言うと自席でなにやら図面を広げた。
「それなんですか?」(進)
「サーシァの服だよ。ユキが考案したんだ。あるもので調達しないといけ
ないし…女の子だからかわいいのを着せたいらしい。お嬢様の望み通りに
してあげたいんだよ…ユキはサーシァを見てるんじゃない…お前との間に
将来産まれてくるだろう子供を見てるんだ。本人は全く気付いてないがな。」
真田はそう言いながらコンソールを叩いていた。
作品名:さらば…イスカンダル 1 作家名:kei