さらば…イスカンダル 1
「スターシア…」
守は小さな声でスターシアを呼んだ。いつもなら
{守?}
と名前を呼び返してくれたのに…自分の声だけしか聞こえない。目の前の宇宙空間が涙で歪む
「ずっと一緒だって…言ったじゃないか…スターシア…返事をしてくれ…
俺はどうすればいい?」
守は握り拳を窓にぶつけた。この気持ちをぶつける場所がほしかった。
{私達、ずっと一緒にいましたものね…}
スターシアの言葉が頭をよぎる
(イスカンダルより…サーシァを選んでほしかった…)
守は流れる涙を止められなかった。
「ユキ?」
進が医務室を訪ねた
「あ、古代くん、大丈夫?当直抜けて…」
ユキが笑顔で答える
「真田さんに断わって来たよ…よく寝てるね…あれから起きないの?」(進)
「えぇ、よく寝るいい子だわ。守さんは?」(ユキ)
「あぁ…初めて見る兄さんだった…こう…生気を感じない、と言うか…」(進)
「当然よ…一生を共にする、って誓って間もないのに…だけど辛いのは
守さんだけじゃないわ。スターシアさんだって辛いのよ…」
ユキはスターシアの事を思うと涙が溢れてきた。
「明日、サーシァちゃんの健康診断するって言ってらしたわ。地球で生活する
事ができるかどうか…調べるって。」(ユキ)
「そうか…そうだよな、地球の環境がサーシァに合ってなければどこで育て
るか、とかを考えないといけないのか。」(進)
「そうなの…」(ユキ)
二人はしばらく無言でサーシァの寝顔を見つめていた。
「守、寝てるか?」
真田がすぐ上にいる守に通信回路を使って話しかけた。
<いや…>(守)
「今弟いないから下に降りてこいよ。」(真田)
<いいのか?>(守)
「大丈夫さ。お前も軍人だ」(真田)
<過去形だがな…>(守)
守はすぐに第一艦橋に降りてきた。
「進は?」(守)
「医務室だ。サーシァを見に行かせた。」(真田)
「そうか…」(守)
「佐渡さんから連絡があって明日、サーシァの健康診断をしたい、って。
地球の環境に合うか調べる、って。」(真田)
「……」(守)
「何か不安な事があるのか?」(真田)
「真田、サーシァは生後何か月だと思う?」(守)
「ユキが10か月ぐらい、って言ってたぞ?」(真田)
「そうか…それぐらいに見えるか。」(守)
「俺は子供の大きさなんかわからないがユキは看護士だったからなぁ…多分
大きさや成長の度合いで分かるんだろう。」(真田)
「じゃぁあの子は2か月前に生まれたばかり、って言ったらどうする?」(守)
「……どう…?意味がわからん。」(真田)
「イスカンダル人は大人になるまでの成長がものすごく早い。1年で地球人で
言えば17才…高校生ぐらいになる…」(守)
「え?」(真田)
「俺はスターシアに“猫や犬じゃないんだから”って言っちまった…まぁスター
シアは猫も犬も見た事ないが…」(守)
「じゃぁ…」(真田)
「とてもじゃないが地球じゃ育てられない…重力や生活環境は大丈夫だと
思うが周りが驚くだろう…まず普通の学校には通わせられない」(守)
「大きくなるのは体だけか?」(真田)
「いや、体と精神年齢はリンクするとスターシアから聞いてる。1年経って
高校生ぐらいなれば精神年齢だけでなく学習能力も高校生ぐらい、と言う
感じだそうだ。」(守)
「じゃぁどうすればいいんだ?」(真田)
「わからん…どうすればいいか俺が聞きたい…」(守)
二人の間に沈黙が流れた。
少し時間を置いて守が話題を変えた
「なぜ…デスラーが助けに来たのか…まるで別人のようだった…地球を侵略
しようとしていた人が俺たちを助けに来た…何があったんだ?」
守は一番知りたかった事を真田に聞いた。
作品名:さらば…イスカンダル 1 作家名:kei