さらば…イスカンダル 1
「どうぞ…」
守がノックの音に反応して返事をした。艦長室に入ってきたのはユキだった。大事そうにサーシァを抱えている。
「起きました…とてもご機嫌で…本当にかわいいですね。健康診断の時も
とてもいい子にしていました。ちょっとお注射でないちゃいましたけど…
終わった後ミルクを飲んで起きた後幕の内さんに頼んで離乳食を作って
もらいました。最初はなんだろう?って思ったみたいでなかなか食べなかった
んですけど慣れてきたらどんどん食べてくれて…離乳食がすすめばミルクも
卒業できますよ。」
ユキは即席で作ってもらったベビーベッドにサーシァを寝かせた。
「守さん、サーシァの事で相談したい事がありましたら何でも言って下さい
生活班全員でフォローしますから。あ、それと私、いつでもサーシァちゃん
を見れるようにシフト外れましたからいつでも声かけてくださいね。」
ユキはそう言うとサーシァのお腹にタオルを掛けて
「お腹が冷えないように見ててあげてくださいね。」
と言って艦長室を出ようとした時…
「森さん」
と守が声を掛けた。ユキが“なんでしょう?”といつもの様に小首を傾げながら聞くと
「…いや、森さんに恋人はいないのかなぁと思ってね。」
ユキは進がまだ二人の事を話していないのを知った。
「え…あの…」
ユキは進との関係を話そうと思ったが守が話を続けた。
「もし…心に決めた人がいるなら…絶対に手を離してはいけないよ。幸せは
自分で掴むもの、と森さんから教えられた、とスターシアはいつも言っていた。
森さんだけが女王として、でなく一人の女性として話してくれた、とね。
とても感謝していたよ。その一言がなければ黙ってヤマトを見送ってイスカン
ダルで一人後悔しながら死ぬ日を待つだけの人生だっただろう、ってね。
俺自身そこまでスターシアが思いつめての告白だと思わなくて…辛い思いを
させてしまった、と…俺が告白していればスターシアは素直に頷いてくれた
だろうと思うと…」
守はサーシァの顔を見ながら涙を流していた。サーシァは守の顔を見てニコニコ笑いながら“ダァダァ”と繰り返す
「俺は一目見た時からスターシアに惹かれてしまった。地球に残してきた
恋人の顔も忘れてしまうほどスターシアに惹かれた。最初は見た目の美しさに
惹かれていったがその寂しそうな瞳に答えたくて…だけどあの気高く誰も
近寄らせないような…女王としてこの星を守り抜かなくてはいけないと…
その気持ちが強くて俺は何も言えなかった…俺は臆病だった…」
守は涙を拭いた。
「女一人に…こんなになってしまう自分がウソみたいで…人間本気になって
成就した想いを突然強制的に終わらされてしまうと何も手に付かないと
いう事がわかった。自分が生きていても…サーシァがいても…スターシアが
いない事がわからないんだ。」
守はサーシァの手を握った。
「これからどう、生きて行ったらわからない…」
ユキは守の独白を聴きながら涙を流していた。
(こんなにも愛されていたのに…スターシアさん…どうしてヤマトに来てく
れなかったの?確かにイスカンダルの資源が宇宙征服に必要なものだと
しても…せっかく女性として幸せを掴んだのに…)
ユキはそう思うとサーシァが不憫に思えてならなかった。
作品名:さらば…イスカンダル 1 作家名:kei