さらば…イスカンダル 1
「ユキ?」
進がユキの部屋をノックした。ユキの部屋は士官室の並びにあるので進の部屋から近いが女性乗組員の部屋だけはカギがかかるようになっていたので他の部屋と同じようにドカドカと入る事は出来ない。
進は返事がないのでそっと扉に手を掛けた…かかっているはずのカギがかかっておらず非常灯が点いているだけで部屋の中は暗かった。
「不用心だな…」
進は何気なく部屋に入るとベッドに頭だけを乗せて床に座った状態でいるユキを見て一瞬クラっとした。疲れ切って眠ったユキの顔が火星で命を落としたサーシァとイスカンダルの帰りの遺体安置所にいたユキと進の頭の中でフラッシュバックした。
「ユキ!ユキ!大丈夫か?ユキ!!」
進は慌ててユキの両肩を掴むと揺さぶるようにしながら叫んだ。
ユキは何事かと思いすぐに起きた。進もユキの起きた顔を見て急に力が抜けて床にへたり込んだ。
「どうしたの?古代くん。」
ユキも慌てて床に座り込む
「いや…ごめん、寝てたんだね…返事がないから心配になって…鍵が開いてて
入ったら…」
ユキはすぐにわかった。なぜ進が自分を起こしたのか…コスモクリーナーを作動させて仮死状態になった時の進の事を中央病院で二度目の入院をしてる時に第一艦橋のクルーに聞いていたから…。
「へんな格好で寝てたから驚いちゃったわよね。用事があれば通信機に連絡
くれればすぐに古代くんの所へ行ったのに…心配かけてごめんなさい。
子守りって、って24時間営業でしょ?ちょっと疲れちゃったみたい。体力に
自信はあるけど…ね。
守さんもまだ精神的に落ち着いていないし…そこでサーシァちゃんの面倒を
ずっと、なんて見ていたらきっと参ってしまうわ。だけどずっと私が預か
ると守さんの拠所を奪ってしまう結果になるし…だからご機嫌のいい時を
狙って守さんに子守りしてもらおうと思ったの。さっき艦長室にサーシァを
戻してきたわ。きっとサーシァもパパに甘えているはずよ。」
ユキはそのまま進の手を握ってそう伝えた。
「そうか…疲れてたんだね…悪かったよ。」
進はユキと視線を合わせようとしない。
「古代くん、大丈夫?」
ユキは何となく進が守にヤキモチを焼いているのだとわかった。シフトを外れてから第一艦橋に行っていない。
二人とも床に座った状態でユキがそっと進にキスをした。進が驚いているとユキは静かに話し始めた。
「大丈夫、って顔じゃないわ。こんなんじゃ訓練中にけがするわよ。新人に
笑われちゃうわ。いい?古代くんは艦長代理なんだからこう(進の両目を釣り
あげながら)キリっとしてなきゃ。」
そしてそのままもう一度キスをすると
「私の前だけ…古代進でいて。」
「ユキ…」
進は自分の気持ちがユキに通じてしまった事に気付き恥ずかしく思ったがそれを返すようにそっとユキにキスをした。
作品名:さらば…イスカンダル 1 作家名:kei