さらば… イスカンダル 2
「あれ?」(守)
「すみません、残念ながら太田です。」(太田)
守はがっかりしたようなほっとしたような複雑な気持ちだった。
「サーシァちゃん、寝ちゃったのでもう少し医務室で預かります。起きたら
連れてきますので…」(太田)
「あぁ、いつもありがとう。」
守は太田の一言が自分に合致してしまったので苦笑いした。
「ユキさんも休憩に入ってもらいました。ちょっと疲れてる感じだったので。」
太田は守の様子を見てそう告げた。
「そうか、森さんに頼り切りだからな…」(守)
「いえ、ユキさんが頑張りすぎちゃうんです。いつもだから大丈夫ですよ。
守さんもそろそろお休みになられますか?」(太田)
「そうだな…サーシァが戻ってこないなら…きっと朝まで寝てしまうだろうし
私も休むか…」(守)
「ゆっくりお休みください。」(太田)
「お休み。」(守)
太田は静かに扉が閉まるまで敬礼した。敬礼を解くと心の中でホッとした。
(あんなそわそわした状態の所にユキさんが真っ赤な目で行ったら絶対抱きし
めそうだ…なんてったって守さんのプレイボーイは軍で有名だったからな。)
太田は一度第一艦橋に戻って医務室にいる事を伝えてから医務室に戻った。
<ユキさん、かなり疲れてたから自室に戻したよ。>
進に太田からメールが入った。
<ありがとう>
とすぐに返事を送りユキの部屋へ向かった。
「古代です。」
ユキの部屋をノックすると扉が開いた。
「…太田くんから聞いたの?」(ユキ)
「うん、なんでも疲れてるから部屋に戻した、って。」(進)
「そう…」(ユキ)
進はきっとまた泣いたんだろう、と分かったが敢えて触れなかった。
ユキの部屋は照明を落として顔がよく見えないようになっていたから…
「食事は?」(進)
「…食べたくない…」(ユキ)
「めずらしいな、生活班長としていつも“食べなさい、ちゃんと”って人に言う
立場の人が…テクアウトしてここで一緒に食うか?」
進が立ち上がる。ユキはちいさくうなずいたので
「じゃぁ待ってて。」
進は部屋を出て行った。
(古代くん、私が泣いたのわかっただろうな…)
ユキは進が出てった扉をぼんやり見つめていた。
(もう、泣かない、て決めたんだけど…だめねぇ…)
ユキは立ち上がり洗面所兵器冷たい水で顔を洗った。そしてさっき手がざらついていた事を思い出したので化粧ポーチから化粧水とハンドクリームを取り出した。
(う~ん、かなりキテるな。)
余り弱音を吐かないユキがかなりキテるのは誰の目にも明らかだった。人の子でこれだけ思い入れるとなると自分の子供はどうなるんだ?などと別の事を考える
(自分の子??自分…ユキの子…ユキの子……俺の子?!?!?!!)
進は二人分の食事を落としそうになる。食堂の中だったから新人が見ていた。
「艦長代理、大丈夫ですか?」
近くにいた北野が慌ててトレイを支えた。席の近くの新人が敬礼する。
「…お、北野か…ははは考え事しながら運ぶのは危ないな。」
進がバツ悪そうに言うと
「ここにいるのは北野の同期か」(進)
「はい。一緒に防衛大学卒業した仲間です」(北野)
「そうか…同期は大事にしろ。」(進)
「はい…それより艦長代理、なぜふたつも?守さんの分ですか?」(北野)
「いや、これはユキの分。部屋で一緒に食べようと思ってな。ここだと賑やか
すぎるから…邪魔して悪かったな。」
進はそう言って危なっかしい足取りはそのままで食堂を出て行った。
作品名:さらば… イスカンダル 2 作家名:kei