さらば… イスカンダル 2
「ユキ、お待たせ!」
進がユキの部屋に食事を持ってきた。ユキはテーブルを用意して待っていた。
「ありがとう。こぼさなかった?」(ユキ)
「ちょっと危なかったけど大丈夫だよ。お腹空いたろ?…(座って)
いただきます!」(進)
「いただきます」(ユキ)
ユキは口に運ぶもののなかなか飲み込まず本当に食欲がないのがわかった。
「大丈夫?無理して食べなくていいよ。」
進の思いがけない言葉にユキは顔を上げた。
「まぁ全然食べないのはいただけないけど。それでなくても細いんだからさ。
できるだけ食べないと…。」
進はそう言ってユキのおかずを一つ取って食べた。
「泣きたい時は俺を呼んで。無理しないでいいから。」
進の言葉にユキは涙が溢れてきた。
「ガマンは体に良くないよ。泣きながら食べたら味、判んなくなるし。」
進はポケットに入ってたハンカチを渡した。
「ほら…ちゃんと洗濯したやつだから安心して使って。」
進の言葉にユキは笑いながら“ありがとう”と言って受け取った。
「少し月基地にいて…どうするか考えるみたい。」(進)
「そう。」(ユキ)
進は話題を変えるために少し時間を置いて話し始めた。
「ねぇ、ユキ…相談があるんだ。」(進)
「なぁに?」(ユキ)
「地球に戻った後だけど…」(進)
「うん。」(ユキ)
「ほら、俺さ寮…家族寮を申請してたんだけど…通っちゃったんだよね。」
ユキは進の言っている意味が解らなかった。
「今まで独身寮だったけど…家族寮に移るんだ。(ユキの反応を見て)だからね
ユキと一緒の部屋で暮らせるようになったの。ヤマトに乗る前に確認したら
ユキは婚約者だから一緒に暮らしてOKなんだって。」
ユキは進の言っている意味がやっと分かった。
「じゃぁ…」(ユキ)
「地球に帰ったらユキのご両親にお願いして一緒に暮らしていいか聞いて…
俺たちの部屋に帰ろう。」(進)
「古代くん…」(ユキ)
「結婚は延期になっちゃったけど…これからはずっと一緒だよ。飛んでる時は
待っててもらうようになっちゃうけど…ユキの所に帰るから…。な?寂しく
ないだろ?」(進)
「ありがとう…嬉しい…」(ユキ)
「よかった、そう言ってくれて…今まで通りでいい、なんて言われたらどうし
ようかと思ったよ。じゃぁ地球に戻ったらその足でユキの実家に行こう。」(進)
「え?急すぎない?」(ユキ)
「俺は一日でも早く一緒に暮らしたい、って思ってるんだ。」
進の一言にユキは頷きながらさっきとは違う涙を流していた。
「兄さん、入るよ」
進が艦長室にいる守を訪ねた。
「もうすぐ月だね。用意できた?」
進は艦長室を見渡すとサーシァの荷物しかなかったがすでにまとめられていた。
「あぁ、大丈夫だよ。さっき相原くんが手伝いに来てくれた。」(守)
「手際よさそうだな。」(進)
「あぁ、すぐに使うものと夜まで使わないものとうまく重ねてくれて…それを
アナライザーに確認させてた。本当に仲間だな。」(守)
「うん、いつも思うよ。」(進)
「……進、いろいろありがとう。本当に助かった。森さんにはお世話になりっ
放しなのに…申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。」
守が本当に残念そうに言った。
「…兄さん、俺ね、ユキと一緒に暮らす事にしたよ。」
守は進の言葉に一瞬言葉を飲み込んだ。
「婚約中で家族寮に住めるかちょっと不安だったんだけど軍からOKが出て
…今回、サーシァの事で寂しい思いさせちゃったし…俺も少しの間は
地上勤務になりそうだから少し傍にいてあげようと思って…」
進が照れながら報告に来た。
「…そうか、おめでとう、と言うべきか…なんていったらいいかわからないが」
守がそう言うと
「兄さんが手を離すな、って言ったろ?今、傍にてやりたいんだ。」(進)
「そうか…そうだな。ははは、なんだかこないだまで中学生だと思ってた進が、
って思うと不思議だな。」
守は複雑な心境を悟られまいと必死に笑顔を作った。
「兄さんの状況を考えると今、報告するべきか悩んだんだ…けど…やっぱり
ちゃんと伝えておきたくて…。」(進)
「進、ありがとう。兄さんも安心できるよ。ちゃんと報告してくれて嬉しいよ
スターシアの事は…いいんだ。もう…」(守)
「兄さん…」(進)
「お前は自分の幸せだけを考えろ。」(守)
作品名:さらば… イスカンダル 2 作家名:kei