さらば… イスカンダル 2
「ゆきサン、今日ハ麦茶デイイノデスカ?」
アナライザーがキャタピラーをカタカタ言わせながら医務室に入ってきた。
「アナライザー、ありがとう。そう、麦茶。その後で少し離乳食を食べても
らおうと思ってね。お腹いっぱいにならないようにミルクは少しお預け。」
ユキが手早くサーシァのお風呂を済ませると太田が服を着せた。
「太田くん、手際いいわね。ありがと…麦茶あげてもらってもいい?」
太田は“OK”と言うとアナライザーから哺乳瓶を受け取った。
「アナライザー、幕の内さんに頼んである離乳食、持ってきてもらっていい?」
ユキがお願いするとアナライザーは嬉しそうにライトを点滅させながら医務室を出て行った。
「よく飲みますね。のど、乾いてたのかな?」(太田)
「そうね、きっとのどが渇いていたのね。ミルクもよく飲むし…本当に手の
かからない子だわ。」(ユキ)
「スターシアさんはどこかで見てるかな…」(太田)
「そうね、きっとどこかで見てるわ。」
ユキは麦茶を飲み終わったサーシァのほほを撫でた
「ユキさん、休憩してください。この時間だと古代さんが食堂にいると
思います。行ってみてください。」
離乳食を終えて少しミルクを飲んだサーシァは太田が抱っこしたまま寝てしまった。太田もサーシァがかわいくてしばらく抱っこしていたいと言ってユキを送り出した。ユキが出たのを確認して相原にメールした
「戦闘班長は食堂か?」(太田)
<あ、そっち出た?…なら僕撤収する。>
相原はメールを返信すると
「…ちょっとトイレ行ってくる。」
と言って席を外した。
「トイレぐらい黙って行けばいいのに。」
進は相原の背中を見てつぶやいた。すると相原が手を挙げて誰かと話してる。“じゃぁ”と手を振った相手がユキだった。ユキは食堂を見渡して進を見つけると手を振った。そしてカウンターに行って食事をトレイに乗せて進の横に座った。
「となり、いいでしょ?」
にっこり笑うユキにうん、と頷くと
「やぁだ、艦長代理、おつかれさん、とか言えないの?」
と言って笑う。そしてパンを一切れちぎった。
「サーシァちゃんは今太田くんが見てくれてるわ。子供、大好きなんですって。
手つきなんて保父さんみたいだったわ。今も抱っこしたまま寝ちゃって…
かわいいからしばらく抱いてる、って。いいお父さんになりそうだわ。」
ユキのひとことに進が反応する
「お父さん???」(進)
「結婚したら育児休暇とか取っちゃいそう!太田くんの奥さんになる人は
きっと幸せだわ。家事育児と手伝ってくれそう。」(ユキ)
「…俺だってちゃんと手伝うよ。」
めちゃくちゃ小さい声で進が言ったのをユキは聞き逃さなかった。
「あら、古代んは手伝うんじゃなくて家事と育児してもらわないと私一人じゃ
何もできないもの…子供の世話と育児は違うから。」
ユキは今、サーシァの世話をしているだけで育児をしているわけではない。
「うふふ…その言葉、しっかり頭の辞書に入れました。その時は頼りにし
てます。お父さん!」
ユキは進の耳元で小さな声で言った。進も真っ赤になってウンウン、と頷くだけだった。
「よしよし…しっかり話してるな…。休憩ラブラブタイム、成功。これだけ
アツアツのトコを当てつけられたら新人のくだらない憶測も少しは下火になる
だろう。まだまだだが今日はOKだな。」
南部が何気なく食堂を横切るふりをして二人を観察した。
作品名:さらば… イスカンダル 2 作家名:kei