さらば… イスカンダル 2
「ふぅ…」
守は急きょ作られたベビーベッドをみながらため息をついた。
(今日も一人寝か…サーシァと一緒に寝ても寂しさは変わらないが…この部屋に
ひとりと言うのも広すぎる…だけどサーシァを見てるとスターシアを思い
出すし…俺はいったいどうしたいんだ…)
もうすぐ地球へ着くところまで来ていた。軍の指示はまだでない。真田は一度月面基地の自分のラボに守とサーシァを置く計画でいた。
(サーシァの成長を地球の人に見せないため…か。)
すでに太陽系に入っていた。冥王星は今回の航路から離れているのであの戦闘空域を通る事はない…そう思ったが太陽系に入るとあの時…最期の瞬間が思い出される…
(沖田さん、帰って参りました…ただ、あなたの元へ報告に行くのはもう
少し後になりそうです。)
守は艦長室から冥王星方面に敬礼した。
(たくさんの犠牲のもとに…私だけ帰還する事を許してくれ)
スターシアを思う気持ちとは別の涙が守のほほを濡らした。
「守さん、サーシァちゃん、お連れしました。」
太田がサーシァを抱いて艦長室に入ってきた。
「ありがとう、結局気持ち良くて寝ちゃったんだな。ここでいろんな人に
面倒見てもらえるから人見知りにならなくて助かるよ。」
守がサーシァを受け取りならが言うと
「そうですね、そうだとどこへ行ってもかわいがられるからいいですよ。
食事は平田が持ってきます。そうそう、サーシァちゃん、良く食べますが
守さんの食事じゃ塩分きついので絶対取り分けて食べさせないでください、
だそうです。あ、平田は古代さんの訓練学校時代の同期ですからいろいろ
話が聞けるかもしれません。」
太田はそう言うと艦長室を出て行った。しばらくすると艦長室をノックする音がした。守は平田だと思い扉を開けると背の高い男性がトレイを持って立っていた。
「…平田君かい?」(守)
「はい。太田から聞いてますか?」(平田)
「あぁ、今さっき来て…どうぞ」(守)
「失礼します」(平田)
平田はしっかり礼をしてから艦長室に入った。そしてトレイを置くとどうぞごゆっくり、と言って部屋を出ようとしたので守が引き留めた。
「あ、良かったら…俺の雑談に付き合ってくれないか?太田くんがキミと弟が同じ学校だったと教えてくれてね…」
守が声を掛けると
「え?私でいいんですか?喜んで!」
平田はそのクールな顔を崩してにっこり笑った。守はソファーの向かいを進めると平田は素直に座った。
「ヤマトの食事はおいしいね。スタッフの努力がにじみ出ているよ。」(守)
「そうですか?そう言われるとうれしいです。戦艦の中は何の楽しみもない
し会わせる顔も変わらないのでせめて食事位は…と思いながら献立作って
いるんです。メニューに詰まると幕の内さんと悩んで悩んで…」(平田)
「そんな時、どうするんだい?」(守)
「そんな時は太田の出番です。」(平田)
守は意外な人が平田の口から出てきたので驚いた。
「え?太田くんは航海班…?」(守)
「そうなんですがあいつ、すごいグルメで…寮の厨房借りて料理作ったり
するんですよ。イスカンダルの時も結構助かりました。だからこっそり
“なんかレシピないか?”って聞きに行くんです。」(平田)
「へぇ…」(守)
「ヤマトは意外な所でたくさんの人が支え合って、の艦なんですよ。」
平田が嬉しそうに言ったので
「ちなみに弟はなにか役に立ったのかな?」(守)
「古代は…艦長代理はすごいですよ。ヤマトは長期航海をするために建造
された艦なので農場があるんです。そこで持っている知識をふんだんに
使っていました。どうしてこんな事知ってるんだろう、という事まで知って
いました。前に聞いたら住んでるところが緑化地域だったから学校でも
勉強会が頻繁に行われていて…大学の教授が来て講師をしてくれたりした
から覚えてた、て…。生活班で農場担当者より詳しいから…結構当てに
していました。おかげで土もとてもいい状態で…それが今も受け継がれて
います。」
平田がそう言ったので守は驚いて
「へぇ…そうなんだ、あいつそんな得意分野があったんだ。」(守)
「一部の人間は軍を辞めてそっち方面に進むんじゃないか、って噂まで
出てましたから…あいつは“軍は辞めない”って言ってました。頑張って
再生させた地球を最後まで見届けたい、と言う気持ちが強いみたいで。
責任感の塊ですね。」(平田)
ただ、その塊の為に命を削る思いで戦っていた事は言わなかった。
作品名:さらば… イスカンダル 2 作家名:kei